やなせたかしさんと片岡義男
まもなく最終回を迎えるNHKの朝ドラ『あんぱん』。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしさんと妻の暢さんをモデルにしたドラマですが、やなせさんをモデルとした柳井喬(やない たかし)が1980年代に『詩とメルヘン』『いちごえほん』という二つの雑誌の編集長を務めつつ、他の雑誌への連載やミュージカルの脚本制作など多忙な日々を送る様子が描かれていました。実はこの2つに片岡義男が寄稿していることをご存知ですか?
まず『詩とメルヘン』ですが、1984(昭和59)年6月号にアメリカの著名な詩人でソングライターのロッド・マッケン(ロッド・マキューン/1933〜2015)の小詩集「朝と夕方とのあいだに」の共同翻訳者として名を連ねています。

1978年に片岡はロッド・マッケンの詩集『ひとり』(原題『Alone』)を翻訳していたため、白羽の矢が立ったのでしょう。『ひとり』を翻訳していた時のことを「楽しい作業だった」とエッセイ「かつて詩集を一冊だけ訳した」で書いています。
そして『いちごえほん』には、1988(昭和63)年9月号[あかとんぼの号]の特集「猫、ねこ、ネコのお話きかせてね」に、子供向けの物語として「ねこが今夜もねむる」という、猫を主人公とした短い作品を書いています。本人曰く「猫の姿を借りておそらくぼく自身を書いている」とのことですが、グラフィック・デザイナーで絵本作家の杉田豊さんよるカラーイラスト入りという、珍しい作品です。ちなみにテレビアニメ「それいけ!アンパンマン」の放送が開始されたのも同じ年です。


(画像はネットより)
「ねこが今夜もねむる」はその後、『きみを愛するトースト』(角川文庫/1989)に収録されますが、子供向けにかなを多用して書かれたオリジナル版から多くの文字を漢字に直した上で「猫の寝る場所」と改題しています。
さらに1997年には『ここは猫の国』(研究社出版)の「あとがき」の一部として『いちごえほん』掲載時のまま再録されています。
『いちごえほん』への「ねこが今夜もねむる」掲載に際して、編集長であったやなせたかしさんと片岡義男との間でどんなやりとりがあったのか、あるいはなかったのか……。いずれにせよ、片岡義男がこんな作品も書いていることも知っていただければと思います。
2025年9月22日 20:00 | ちょっと一息
