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評論・エッセイ

猫の寝る場所

 猫の多江子は、突然、目を覚ました。いつもの癖だ。気持ちよく眠っているその眠りのちょうどまんなかあたりで、多江子は、いつも突然、目を覚ます。夢を見ていて、その夢のまんなかで目を覚ますこともあるが、いまはなにも夢を見ていなかった。
 目を覚ました多江子は、気持ちよかった眠りの余韻を体ぜんたいに感じながら、ゆっくりと立ちあがった。あたりを見渡した。部屋のなかは、暗かった。自分を飼ってくれているこの家の、ご主人の書斎のような部屋の片隅にある、ひとりがけのソファの上で眠っていたことを、猫の多江子は、思い出した。ご主人は、日曜日の…

底本:『きみを愛するトースト』角川文庫 1989年

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