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写真エッセイ『キャンディを撮った日』『東京を撮る』など5作品を公開

写真エッセイ『キャンディを撮った日』(フレーベル館/1998)、『東京を撮る』(アーツアンドクラフツ/2000)、『名残りの東京』(東京キララ社/2009)、『ここは東京』(左右社/2010)、そして『ここは猫の国』(1997/研究社出版)の5作品を本日公開いたしました。

 最初のキャンディを僕は父親からもらった。遠い過去の出来事だ。しかし僕は記憶している。幼い僕に強い印象をあたえたからだ。小さな袋に十個ほど入っていた、きれいなセロファンにくるまれて両端をひねられた、不思議な感触の小さなもの。僕にとって最初のキャンディとは、そのようなものだった。食べてみせようとする父親に、幼い僕は抵抗し怒った。キャンディとは、少なくともそのときの僕にとっては、キャンディのままであってこそ、キャンディだった。包装紙をむいてなかのものを食べる、というものではなかった。キャンディは見て楽しむ遊び道具だ。キャンディで僕はどれほど遊んだだろう。

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 この写真集のなかにある写真のおそらくすべてを、僕は写真機まかせで撮った。焦点は自分で合わせる、そして巻き上げや巻き戻しも手動だが、露出は自動露出だ。ただし、マイナス三分の一あるいはマイナス二分の一の補正で撮る。レンズは五十ミリだ。東京という都会の市街地を埋めつくす、縦横無尽に人の手のかかった日常の営みの現場。そのなかを歩きまわって探せば、写真機でわざわざ切り取るに値する美が、かならずある。しかもたくさんある。これが美ですかと言う人には、これこそ美なのだと、僕は答えたい。これこそ東京の美なのだ。撮ることによって僕は自分を確認しようとしている。連続して果てることのない光景のなかに、写真機で切り取るに値する美の部分を見た自分を。

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 この本の作業中の二〇〇九年の春先、まったく偶然に、写真展が重なることとなった。僕が撮影した景色のおよそ半分はすでに消え去って跡かたなく、したがってそれらの景色は写真のなかにしかなく、かろうじて現存する景色も、じつは消えていく東京の名残りなのだ。好きだから、面白いから、という理由だけで撮り続けてきたのだが、二十年近い時間が経過すると、撮った景色もこれから撮るであろう景色も、すべては名残りの東京となる。消えたならそこにはいっさいなにもない。したがって消える以前は、すべてがそこにあった。単なるリアリティではなく、具象も抽象もすべてひっくるめた全体が、現実のさなかで人々の生活として機能していた。そのような景色のいたるところに、はからずもあらわれる全体性が、僕の興味をとらえてやまない。名残りという現在のなかで、僕はさらに撮るだろう。

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 写真機を持って街を歩けば、写真に撮りたくなる景色はいくらでも見つけることが出来る。今日はそのような景色を写真に撮るのだ、ときめた日には写真機を持って歩く。街のなかにあるそれらの景色は、時間のなかに開放されている、と僕は感じる。写真は一瞬をフィルムのなかに止めるが、僕は閉じるために撮っているのではない。したがって、撮った人は確かにこの僕だが、誰が撮った、この僕が撮った、というようなことはまったく重要ではない。重要なのは写真の出来ばえだけだ。このような場合の写真の出来ばえとは、まずとにかく、被写体の出来ばえだろう。そして被写体の出来ばえとは、時間の経過にほかならない。そこで営まれて来た生活の蓄積は、ほどなくかならずや、かたちとなって外に出始める。多くの場合、相当に長い時間をかけて、景色つまり被写体は、僕の目にとまって写真に撮りたいという気持ちを起こさせるほどに、景色として完成の度合いを高めていく。

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 僕は絵本を買うのが好きだ。気にいったのを見かけるとかならず買う。いつのまにか手もとにかなりの数の絵本がたまることになる。本棚は一列そしてまた一列と、絵本で埋まっていく。ときたま何冊か取り出しては観察する。すっかり忘れている絵本に久しぶりに再会すると、出会ったときの感銘は何倍もの大きさになって、おなじ絵本から僕に戻って来る。猫の絵本には傑作が多い。猫は画家や文章家の創作意欲をかき立てる存在らしい。才能のある画家が創作意欲をかき立てられて取り組むと、そこには必然的に傑作が生まれてくる、ということだろう。猫の絵本というものは、その意味でもたいそう幸せな世界だ。猫の絵本には傑作が数多くあり、そのどれもが幸せな充実感に満ちていることを、僕のこの本でなんとか伝えることが出来るなら、この本という試みはそれで成功だ。

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2023年12月29日 00:00 | 電子化計画

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