VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

キャンディを撮った日

 最初のキャンディを僕は父親からもらった。遠い過去の出来事だ。しかし僕は記憶している。初めて自分の手のなかに見るキャンディというものが、幼い僕に強い印象をあたえたからだ。二歳から三歳に向かいつつある頃の僕だった。
 季節は冬の初め。自宅に帰って来た父親は、オーヴァー・コートのポケットから小さな紙袋を取り出し、それを笑顔で僕に手渡してくれた。淡い茶色の紙袋だ。アメリカではブラウン・ペーパー・バッグと呼ばれている。大から小までいろんなサイズがある。僕がもらったのは、文庫本ほどの大きさの袋だった。
 袋は不定形にふく…

底本:『キャンディを撮った日』フレーベル館 一九九八年

このエントリーをはてなブックマークに追加