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片岡義男.com 全著作電子化計画

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「トマトケチャップといえば」

 ケチャップと聞いて、何を頭に浮かべるか。そう、トマトケチャップといえば……昔は「カゴメ」しか想いもしなかった。ある時(1961年、昭和36年)ハインツというアメリカのトマトケチャップの会社が日本へ上陸した。水産業を席巻していた日魯漁業と合弁会社をつくってのことだった。

 なぜこんな話を持ち出すのか? 片岡義男.comで『ぼくならケチャップはハインツ』を読んだからだ。思い出が湧き上がるように頭の中をいっぱいにしていった。昭和36年といえば、東京オリンピックの3年前、私は中学3年生だった。クラスの可愛こちゃんに熱を上げていたころだ。私の従兄弟の旦那さん(まだなってなかったかナ)が、日魯漁業に勤めていて、陸に上がった新規事業を担当させられた。だから、従兄弟からケチャップを「カゴメ」だなんて思っていたら大間違いと。片岡義男もまったく同じことを言っていた。確かに指ですくって舐めてみると、不思議な異世界の味がした。たかがトマトなんだよ。だけど、この味の不思議さ、隔たり、違い、は、その後の東京オリンピックにまで続いて私の気持ちの中に住み着いた。

 片岡義男を読むと、時々、こうした、えもいわれぬ特別な感覚にひたることができる。彼の『広島の真珠』をぜひ読んでほしい。G7サミットなどと大騒ぎしている渦中に、黙って、静かに、この作品を読んだならば、あなたはどんな下宿の六畳一間に住んでいたとして、次の世界を見つめることのできる一人になることだろう。実は、片岡義男.comの作品制作にも使われているRomancerの設計思想を、私たちは「6JO」の思想だなんて言っている。「6JO」とは、「六畳」なんです。

片岡義男全著作電子化計画プロデューサー 萩野正昭

2023年5月17日 15:08 | 片岡ニュース

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