見られることから始まる
僕はTVを見ない。誰かほかの人がオンにしたTVの画面をふと見るのが、僕にとっての日本のTVのすべてだ。つい先日、ふと見た画面は、奇妙に面白い体験だった。
整然とした最先端の会社オフィス、という設定の場所を、ひとりの若い女性が、ヒールの音も高らかに、すまして歩いてくる。仕事の時間のスーツを彼女は着ている。ファイルを二、三冊、胸にかかえている。背すじをのばして胸を張り、ショルダー・パッドの入った肩幅も凜々しく、彼女はオフィス空間のなかをどこへともなく歩いていく。
若く美しい、仕事の出来るカリーア・ウーマン…
底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年
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