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ひとりでアイディアをつつきまわす午後

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 冬のはじめ、ある日の午後、僕はひとりで道を歩いていた。歩きながら、僕はいろんなことを考えた。

 アメリカン・トップ40は絶対に小説にすることが出来るはずだ、というようなこともその僕は考えた。ナンバー40からナンバー1まで40曲のヒット・ソングをそろえ、たとえばケイシー・ケイサムがやっていたように、遠く離れている人にそれぞれの歌をいろんな人がデディケートしていくのを、僕なら僕が自動車で走りつつずっと最後まで聞いていくという構成にして、いくつものストーリーをひとつに重ねあわせ、結局はひとつの小説を作ってしまうのは簡単ではないか。

 まず最初のナンバー40をなににするといいか、などと考えながら、僕はひとりで歩いていった。ああも出来る、こうも出来ると、ひとりでアイディアをつつきまわしている時間は、意外にこんなときだ。

 ひとりのフリー・ランスの女性エディターが、ある出版社のために一冊の書きおろし短編集を作っていくストーリー、というアイディアを思いついたのもこのときだった。

 7人の作家を彼女は選び、それぞれに会い、作ろうとしている短編集について説明をし、原稿を依頼していく。どの作家も引き受けてくれる。およそどこにも存在しないような理想的な女性エディターを造形すると、きっと楽しいだろう。

 やがて締切が接近してくる。彼女は7人の作家に催促をはじめる。ひとつずつ短編が出来てくる。受け渡しの方法や状況は、作家ごとに個性的にすべきだ。彼女を相手に話をしながら、そのなかからストーリーを作っていき、さらにそれをひとひねりして彼女を満足させる、そんな作家がいてもいい。

 とにかく、ひとつずつ、ストーリーが出来てくる。それを彼女は読む。読者もまた、彼女といっしょに、そのストーリーを読んでいく。つまり僕としては、7つの短編をヴァラエティ豊かに書かないことには、話にならないというわけだ。書き手である僕にとって、このアイディアはたいへんに挑戦的で楽しい。

 7人の作家たちはすべて僕の創作による架空の存在だが、ひとりだけ、誰がどう読んでもこの僕以外ではあり得ないように、僕とそっくりに書いておくと、いちだんと面白いのではないかと歩きながら僕は考えた。

 7つの短編を彼女は手に入れる。どれかひとつは、書きなおさせるといい。原稿がそろうまでにいろんな出来事があり、彼女自身のドラマを適当に加えて、7編の短編が彼女の手もとに集まる。

 7編めを彼女は読む。彼女はその出来ばえに満足する。よし、これで一冊の本が自分の思いどおりに出来るのだ、と彼女は思う。そしてそこで、その本は終わる。書きかたにもよるけれど、そして僕がひとりで書く7編の短編の出来ぐあいにもよるけれど、このアイディアは面白く実現出来るはずだ。

 トップ40を小説にするというアイディアも、ひとりの女性エディターが一冊の短編集を作るアイディアも、いくつかを拾い集めてひとつにするという構造においては、基本的におなじだ。自分ひとりで考えていると、ヴァリエーションで考えてしまうことになるのかもしれない、などと考えつつ僕は歩いていく。

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年


1991年 『アール・グレイから始まる日』 ストーリー 小説 書く 物語 音楽
2015年12月1日 05:54
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