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評論・エッセイ

あほくさ、と母親は言った

 僕には母親がひとりいる。日常的な日本語では、産みの母、と言われている。英語ではバイオロジカル・マザーと言うようだ。その産みの母は、育ての母、でもあった。あのひとりの女性が僕を産み、僕を育てた。そのことに間違いはない。僕は三十歳まで母親とおなじ家に住んでいた。
 母親からは多大な影響を受けているはずだ。しかし、これとこれとこれが、母親から受けた大きな影響です、とつまみ出して人に見せることが出来るような影響が、どこを探してもまったくない。これは不思議なことだ、と僕はずっと以前から思っている。僕は母親から、どのような影響を受…

底本:『酒林』2019年9月号

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