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あの映画をもう一度観たい、その1

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 イギリスとスイスとの合作映画『ワイルド・ギース』が制作されたのは一九七八年だった。そしてその年に日本でも劇場公開された。僕は東京の渋谷で観た。プラネタリウムのあった建物のなかの映画館だった。いまからちょうど三十年前のことだ。それ以来、一度も観ていないが、ときたま思い出していた。もう一度観たいものだ、と思うことが何度もあった。

 三ヵ月ほど前、新宿のタワー・レコードで『ワイルド・ギース』のDVDを見つけた。とっくにDVDになって市販されていたのを、僕はただ知らなかっただけのようだ。そしてその前後に、サウンド・トラックのLPを中古レコード店で買ったし、ベスト・セラーになった小説を原作としているということだったので、インタネットで検索して、アメリカの古書店からペイパーバックを手に入れた。続編があることもわかったから、ついでにそれも。写真のなかにその四点がならんでいる。LPというものを知らない人が多いということなので注釈のように書いておくと、いちばん左にある正方形のものが、サウンド・トラックのLPだ。ジャケットと呼ばれたボール紙の袋に入っている。

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 三十年ぶりに一枚のDVDで『ワイルド・ギース』との再会を果たした。二時間八分というかなりの長さだ。CG以前の時代だからすべて実写で、その映像は三十年ぶりということとはまったく別に、根源的と言っていい懐かしさの気持ちを、僕のなかに喚起した。スタジオでセット撮影された部分も、アフリカのトランスヴァールでロケーション撮影された部分も、すべて等しく地に足のついた実写であり、そこに漂わざるを得ない誠実さのようなものが、主演の男優たちときわめて幸せな親和性を発揮している。リチャード・バートン。ロジャー・ムーア。リチャード・ハリス。ハーディー・クリューガー。さらにもうひとりあげるなら、ジャック・ワトソン。イングマー・ベルイマンの娘アンナが出演しているのは、楽しいおまけのようなものか。監督は西部劇や戦争映画で親しんだアンドリュー・V・マクラグレンで、脚本がレジナルド・ローズだったということは、再会による新発見となった。原作をじつに手際良く一本の映画へと転換させている。

 日本語字幕だけだと、この映画が描いている物語の背景や人物たちの事情などについて、充分な理解は出来ないのではないか。英語の台詞も、許容範囲いっぱいに省略を重ねたあとに残る、最小限の説明しか含まれていない。しかしそれによってぜんたいは前へ前へと、一定の快適なテンポで進んでいくのだから、よくはわからない部分と引き換えに、よくわかる部分を楽しむという、良く出来た映画ならではの不思議な体験を、僕はこの再会で楽しんだ。

 アフリカのどこかの国の軍事独裁政権によって、監獄に拘束されていて処刑が近づいている、かつてはその国を治めていた人格高潔な人物を、ロンドンまで連れ出すために傭兵たちが命を賭けて救出作戦を展開させる。さて、その展開はどのようになるのか、という物語だ。かつて活劇映画という言葉が生きていた時代があった。そのあとの時代では、その言葉は、アクション映画、という言いかたへと変わった。『ワイルド・ギース』は銃弾アクション映画だ。自分たちが敵に向けて放つ銃弾がいかに効果を発揮するか、そして敵の放つ銃弾を自分たちがその体に受けるかどうか、というプラスとマイナスの力のからみ合いが、アクションを支えていく。

 アフリカのどこかの国はダニエル・カーニーの原作によるコンゴのようだ。コンゴでは植民地だった頃からイギリスが広範囲にわたって深い権益を支配してきた。その中心が銅の鉱山だ。世界でもっとも豊かだと言われている鉱脈があり、その採掘をめぐってイギリスは膨大な投資をしてきた。採掘の施設から鉱石を運び出す鉄道、船に積み込む港など、銅だけが頼りの国をじつはこうしてイギリスが支配してきた。時代は移り内戦をへて黒人の統治となり、ジュリアス・リンバーニという人物が大統領になった。このあたりからフィクションが始まっていく。

 おきまりのクーデターが起こり、リンバーニの旧友が軍事独裁政権を作った。国の人材は追放し、インフラストラクチャーは使いつぶし、人民は困窮を深めるいっぽうだ。そして独裁政権の要人たちは外国からの援助を着服しては、私財の蓄積に余念がない、という状態だ。クーデターを事前に察知したイギリスの金融界はリンバーニを国外へ連れ出した。リンバーニを助けるためではなく、使い道はまだいろいろある、という理由からだ。

 使い道とは、たとえば、リンバーニが持っていた鉱山の株式を、独裁政権に格安で譲る、というようなことだ。鉱山からの利益のいくらかが独裁政権へと還元される。それを維持するため、独裁政権はイギリスの言いなりになる。独裁政権の命綱だった外国からの援助が急激に細っていく。どこもその国に興味を示さない。困った独裁政権は銅の鉱山の半分を強引に国有化してしまう。イギリスにとっては権益がいっきに半分に減ることになる。独裁政権はさらにない知恵を絞る。鉱山のすべてを国有化し、イギリスが投資したインフラはすべて没収する、という浅知恵だ。

 スイスになかば亡命しているリンバーニは、アメリカやイギリスに助けを求めるが、どちらも応じない。リンバーニにはふたたび国を治める力はないだろう、と判断したからだ。しかしリンバーニは国の人口の三分の二以上を占める部族の出身であり、人々にとってはほとんど神と言っていいほどのカリスマ的な存在で、彼がいったん国に帰れば、独裁政権は倒れかねない。

 そのことをよく承知している独裁政権は、心臓病をかかえているリンバーニはそれがもとでスイスで客死した、という嘘の情報を国内に流す。そしてCIAの協力を取りつけ、リンバーニをチューリッヒからテルアヴィヴ行きの飛行機に乗せ、途中でハイジャクさせてリンバーニをアルジェリアに降ろして監禁する。死んだはずのリンバーニがあらわれたら国内は神の降臨で大騒ぎになるから、リンバーニをアルジェリアから密かに国内へ移送し、リンバーニが持っている情報をすべて聞き出したのち、すみやかにそして極秘に、処刑してしまうことを独裁政権は立案する。

 リンバーニが独裁政権のもとへ移送されたら処刑は一週間後だという。銅山の権益奪回を狙うイギリスの金融界の大物が、その一週間のあいだにリンバーニをイギリスへ連れて来ることを、以前にも利用したことのある傭兵に持ちかける。この傭兵を演じているのがリチャード・バートンだ。莫大な報酬を約束されて依頼を引き受けたバートンは、信頼出来る昔の仲間を募り、新たに募集もして、総員五十人の傭兵部隊を組織する。そして彼らをモザンビークで鍛え上げ、独裁国家の上空で夜間に輸送機から全員が落下傘で降下し、作戦は開始される。

 リンバーニを牢獄から連れ出すところまではすべてうまくいくのだが、独裁政権と手打ちをして銅山の権益を確保した金融界の大物はリンバーニが不要になり、傭兵たちを現地に見捨てる。さて傭兵たちはどうするのか、というところから後段のアクションが始まる。渋く苦い展開に甘さが程よく溶け込むラストは、このような映画が作られなくなって久しい事実の確認でもあった。

出典:『Free&Easy』2008年10月号


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2018年3月21日 00:00
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