アイキャッチ画像

風をかっさらうようにして、チョッパーがハイウエイをまっすぐに飛んでいく。よく冷えたバドワイザーが手近にある

縦書きで読む

LinkedIn にシェア
LINEで送る
Pocket

 アメリカのチョッパー乗りたちのための専門誌『イージーライダーズ』が、いまでも健在だ。創刊されてすでに十数年になる。カリフォルニアのフレズノという町のドラグストアで見かけたときは、飛びつく、という感じで買い、読んだのを、よく覚えている。いまでも、タイトル文字のロゴを見ると、旧友に会ったような懐かしさを感じてしまう。特別にこの雑誌に入れあげているわけではないけれど、定期購読しているので、毎月なんとなく読んでいる。

 創刊された頃は薄っぺらく、カラーのページもなかったような気がするが、いまでは百三十ページあり、カラーのページもある。内容も、しっかりしてきた。誌面で紹介されているチョッパー乗りたちのオールド・レディズたちも、まともな美人が多くなってきた。一冊が一ドル七十五セント。専門誌のような面がまえも板についてきている。「エンタテインメント・フォ・アダルト・バイカーズ」だそうだ。月刊のペースで、毎月、ニューズ・スタンドにならんでいる。

 チョッパー乗りである自分たちのことを「アダルト・バイカーズ」と、ユーモアの気持ちもこめて呼んでいるわけだが、さすがに誌面にはチョッパーしか出てこない。

「カーヴをせめる? なに、それ」という感じのバイクばかりだ。土台になっているマシーンはハーレーが圧倒的に多いから、ハーレーをどんなふうにいじればアメリカのチョッパーになるのか、そんなことに関心のある人たちにとっては必読誌だろう。

 この『イージーライダーズ』でいまぼくがいちばん熱心に興味を持っているのは、小説だ。

 毎月、短篇の小説が、すくなくても一本、多ければ三本くらい、のっている。どれもみな、チョッパー乗りのいろんな気持ちが、テーマになっている。あるときは稚拙だったり、またあるときはせっかくのテーマが追いこめきれていなかったりする場合もあるのだが、広大なオープン・スペースの底にはりつけてあるハイウエイを、風をかっさらうようにしてまっすぐに飛んでいくチョッパーおよびそのライダーたちの気分はうまくつかまえて書いてあり、ここがなかなか捨てがたい。

 ほどよく冷えたバドワイザーの十二オンス缶を片手に、そしてもういっぽうの手には、小説のページを開いた『イージーライダーズ』を持って、風の吹く場所に寝っころがって読むと、たいへん結構。そしてその小説の出だしの部分、映画で言えばタイトル・バックからうまく気分を出してくれていると、期待感はさらにたかまる。

 たとえば、ジョン・ワトスンという人の短篇『コレクターズ・アイテム』などは、書き出しがとてもよく、最初のワン・コラムをバドワイザーとともにじっくり楽しみ、ワン・コラムだけ読んで目を閉じ、風に吹かれつつバドワイザーをちびりちびりと、チョッパー小説の最初のワン・コラムの楽しさによりそわせたのだ。こういう場合のビールは、テレビのコマーシャルふうに空を大げさに仰いで、ゴク、ゴク、ゴク、なんていう飲み方はしないほうがいい。かならずしもほんとにちびりちびりではないのだが、とにかくそういう方針でいきたい。

 チョッパー乗り小説『コレクターズ・アイテム』の書き出しの感じについて、すこし書いておこう。

 時間は昼すぎ、外はかんかん照り。おりしもブラインドをまだおろしたままの部屋のなかでは、カールという名のチョッパー乗りが、なにか悪い夢にうなされつつ、眠っている。

 かなり悪い夢なのだろう、カールはうめいたりあえいだりする。ひときわ声たかくうめいたカールは、自分のその声にはっと気づき、目を覚ます。

 カールは、ベッドに起きあがる。ひゃあ、よくない夢だった、と思いながらぼうっとしていると、部屋のドアが開く。

 ラルフという名の、相棒のチョッパー乗りが、ドア口に立ち、にやにやと笑っている。片手には、缶ビールを持っている。

「どうしたんだ、いったい」

 と、ラルフが言う。

「えらい声を出してたぜ。よっぽど悪い夢か、あるいは昨夜のうちに女でも連れこんでいて、起きぬけの一発をやってるか、どっちかだと思った」

「悪い夢のほうさ」

 と、カールは、こたえる。そして、

「よう、ラルフ。なぜこんなに早くから起きてるんだ」

「早いもんか。もう昼すぎだ。窓の外を見てみろ、雨はあがって陽が照っている。出発しよう」

「出発は明日にまわそうよ」

 と、カールは言う。

「今日がもう昼すぎなら、今夜はいっそのことしっかり寝て、明日の朝、早くに出発しよう」

 カールとラルフは、おなじ部屋に住んでいるルームメートどうしだ。このふたりのチョッパー乗りは、毎年、一年に一度、ふたりそろって北米大陸クロスカントリーのツーリングに出ることにしている。このツーリングは、ふたりにとって、年に一度の聖なる儀式のようなものになっている。

 広い大陸を、自分たちのチョッパーにキャンピング・ギアを積みこみ、存分に走りまわるのだ。

 走るルートは、毎年、ちがっている。なぜちがうのか、その理由がにくい。まず第一に、まえの年とはちがった町でちがった女性たちとめぐりあいたいから、そして第二に、まえの年にやりまくったあちこちの田舎町の女性たちのボーイフレンドからの仕返しを避けるため。田舎町の連中は執念深いから、という文句があったりして、うなずける、うなずける、という感じ。映画『イージー・ライダー』の最後で、キャプテン・アメリカを散弾銃で射つおじさんのような、あんなふうな執念深さだ。

 このクロスカントリーのツーリングを、ふたりは、毎年、夏におこなう。冬のあいだは、夏に体験したさまざまな冒険、つまりこの場合は、ツーリングの途中でベッドを共にしてきたいろんな女性たちのことを、ガールフレンドに語って聞かせて、すごす。

 チョッパー乗り小説『コレクターズ・アイテム』の、書き出しのワン・コラムは以上のようだ。

 アメリカのチョッパー乗りたちにとっての、夢のようなストーリーだ。雨があがったとか、陽がさしてるとか、あるいは、片手に缶ビールを持っているだとかの、なんでもないひと言がうれしい感じのリアリティを持ち、ストーリーぜんたいの夢の密度を、たかめている。この小説のここからさきは、ぼくひとりで楽しみに読むことにしよう、それがいちばんいい。

『イージーライダーズ』にのったこんな短篇小説を集めたペーパーバックが、すでに二冊、出ている。『ベスト・バイカーズ・フィクション・フラム・イージーライダーズ』という。日本語の翻訳もある。

『イン・ザ・ウィンド』という素晴らしいタイトルの写真集も、すでに十冊以上、出ている。『イージーライダーズ』にのったチョッパー乗りたちの、いかにもその気分という感じの写真を選びぬいてつくったものだ。チョッパー・ライダーたちは完璧にノーへルで、まさに風のなかに丸ごと飛び出し、風をからめとっている。

 チョッパー乗りの専門誌『イージーライダーズ』も、創刊から十年ちかくたち、蓄積のようなものを持ちはじめたようだ。

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』太田出版 1995年

タグで読む06▼|オートバイを読む/オートバイで読む

タグで読む_バナー画像_オートバイ

関連エッセイ


1996年 『5Bの鉛筆で書いた』 アメリカ エッセイ・コレクション オートバイ ホンダ 片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』
2017年5月7日 00:00
サポータ募集中