アイキャッチ画像

京都の四季を英語で三行詩に

LinkedIn にシェア
LINEで送る
Pocket

『キョート・ドゥエリング』は、京都に二十五年にわたって住んでいる、イーデス・シファートというアメリカ女性の作品だ。短い詩による一年、という副題のとおり、ぜんたいは一月から十二月まで、十二に分かれている。そしてその一年を描き出す短い詩は、ぜんぶで三百五十編だ。英語による短い詩でとらえた、京都の四季だ。

 どの詩も、三行詩だ。一行は四語あるいは五語で構成されている。一見したところ、英語の俳句のようにも見える。著者は蕪村に傾倒していて、詩のなかに蕪村の名が何度も出てくる。日本語による俳句へと、逆に翻訳することは可能だと思うけれど、英語による俳句ではなく、副題にあるとおり、ごく短い詩としてとらえたほうが正しい。

 作者の気持ちは、俳句の気持ちだろう。そして、彼女が使う言葉は、英語だ。その両者が、いったいどのような世界を描き出すのか、そして、どのような感概が三行の短い詩に託されるのか、僕は興味を持って読んでいった。

 一月の最初の詩は、一月一日の夜明けの薄明かりを詠んだものだ。夜明けの最初の薄明かりをまず地面の霜がとらえ、霜は淡く光るという情景が、三行詩になっていた。一二月の最後の詩では、ひと茎の水仙の花に、早くも春の香を見ている大晦日の自分の気持ちが、安定した静かさのなかで提示してあった。

 このふたつの詩のあいだに、京都の一年がある。一ページに五編ずつ、詩がならべてある。共感することの出来る詩をたどりつつ読んでいくと、日本の一年はあっというまに終わってしまうのだった。

 二月の詩のなかに、次のようなものがあった。作者は、凍った滝を見ている自分は、心のなかではその滝の水を全身に浴びている自分だ、と作者は思う。しかし、滝はいま、凍っている。そしてそれを、自分は見ているだけだ。それならばいまの自分は、濡れることなく心を洗っているのだ、と作者は思う。

 五月の詩のなかには、こんなのがあった。部屋の窓が開いている。外は雨上がりだろうか。木々の葉は濡れている。濡れた葉の香が、窓から部屋のなかへ入って来ている。しっとりと湿りけをおびた空気の、なんと柔らかいことか。

 おなじく五月の詩のなかで、僕は次のような詩が気にいった。自分はなにかを見つけようとしている。しかし、まだ見たことはなく、したがってまだ知らずにいることを、いったいどうやって見つけ出すことが可能だろうか、という詩だ。

 しばらく旅行をしていた作者が、京都へ帰ってくる。自宅に戻り、ふと井戸をのぞきこむ。井戸の底にある水に自分の顔が写っているのを、作者は見る。まだ自分はここにいるのだと、彼女は確認する。このような内容の詩も、僕は気にいった。

 うっすらと霞のかかった満月。秋の月ではないし、夏の月でもない。もちろん、冬の月でもない。そんな五月の月が、いま夜の空に輝いている——という詩もあった。

 一月から十二月まで、月の順番に沿ってならべられた三百五十編の短い詩は、変化していく季節を写し取った作者の心だ。移り変わる季節のなかに、作者がなにごとかを感じてそれを大切にしている事実は、詩を読んでいくにしたがって、はっきりとする。

 冬の詩が、僕にとっては、最も印象が強い。冬、つまり京都の寒さを相手に、作者の心はなんらかの呼応の関係を確実に結んでいる証拠だと、僕はとらえたい。十一月の詩のなかに、次のような詩があった。山茶花の花が咲く。山に降った初雪を、作者はその花に感じる。そして、そのようなことを感じている作者の足もとには、冬の薄陽がさしている。

kyoto_book
Edith Marcombe Shiffert
Kyoto-Dwelling: Poems: A Year of Brief Poems

Tuttle Publishing,1989
Illustration:Kohka Saito

(画像をクリックすると、アマゾンのキンドル版のページに飛びます)

底本:『ノートブックに誘惑された』角川文庫 1992年

今日の1冊

%e8%a1%a8%e7%b4%99%ef%bc%bf%e7%a7%8b%e6%99%82%e9%9b%a8

秋時雨|片岡義男

吹き付けるような秋時雨の中を2台のクルマが走っていく。夜もかなり深い時間だ。
2台には男女が2組ずつ。合計4人。「大陸から日本海を渡って、風が吹いてくる。冬の季節風のはじまりだ」

関連エッセイ

11月28日 |コパトーンの香りはあらゆる夏のすべての思い出


11月29日 |手紙


11月4日|深まりゆく秋です


12月27日|プラモデル


9月22日|ふたりで語り合う物語。記憶のなかの、過ぎ去った夏。ー(1)


7月30日|五つの夏の物語|5


8月13日|五つの夏の物語|2


2月15日|ジャパニーズ・スタイルを撮ってみましょう


2月13日|四季のひとめぐり


1992年 『ノートブックに誘惑された』 京都 季節 片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』
2016年11月29日 05:30
サポータ募集中