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書評

一人称による過去形。しかし世界はいつのまにか現在。日系四世の女性の浮世。アメリカン・ドリームの外縁のいちばん外に近いあたり

 シンシア・カドハタの小説、『ザ・フローティング・ワールド』のタイトルは、浮いている世のなか、つまり浮世という日本語の、英語への直訳だ。そしてこの場合の浮世とは、一九五〇年代のアメリカに存在した、白人中産階級を中心としたアメリカン・ドリームの、はるか外側の縁あたりを意味する。
 そのような浮世を生きるひとりの若い日系の女性、フジイタノ・オリヴィア・アンの、十四、五歳から二十一歳までの、成長物語だ。小説ではあるけれど、いわゆるドラマを作って描いてあるわけではない。おそらく作者自身だろうと僕は思うオリヴィア・アンの、成長して…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 1995年

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