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評論・エッセイ

栗きんとんと蒲鉾のあいだ

 今年の夏は夏至の日に鰻を食べた。確か知人たちふたりといっしょに、三人で。僕は鰻ではなくてもよかったのだが、彼らふたり、正確には彼女と彼が、鰻もいいね、と言ったから鰻となった。鰻を食べるあいだ、いろんな話をした。夏至のことも話題になった。夏至という言葉はなかなか好ましいし、見た目も悪くない。短編小説の題名にいいのではないか、と僕は言った。しかし、ただ単に夏至だけでは、愛想がなさすぎる。いま少し言葉が加わるといい、というのが僕の意見だった。鰻はそのあたりで終わった。
 鰻のあと、僕は彼女とふたりで、コーヒーを飲んだ。そのコ…

底本:『洋食屋から歩いて5分』東京書籍 2012年
初出:『酒林』第83号 2012年1月1日

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