秋の雨に百円の珈琲を
十月初めの平日、雨は朝から降っていた。昼前に窓から外を見たら、雨はやんでいた。たたんだ傘を持って人が歩いていた。雨は降ったりやんだりの一日なのだ、と僕は思った。夕方近く、自宅を出ていつもの私鉄駅へ歩いていくとき、僕は傘をさした。数日前に六百五十円で購入した透明なヴィニールの傘だ。
友人たちと夕食の約束があった。私鉄に乗ったのはそのためだ。各駅停車の電車で四十分ほどぼんやりしていると、降りる駅だった。だから僕はその駅で降り、いくつかの用事で三十分ほど過ごしたあと、夕食の店へ向かった。店の奥にひとつだけあるテーブルに、男…
底本:『抒情文芸』2019年冬号
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