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評論・エッセイ

庶民の不安はどこから

 庶民、という言葉に別の言葉がつき添うものの言い方に、どのようなものがあるか。名もなき庶民、というのは代表格だろう。名は誰にもあるのだが、名もなき人々、つまり無言無抵抗の存在としてひとくくりにされて放り出されている人たち、それが我が国の庶民だ。庶民のささやかな幸せ、庶民のささやかな願い、などがその次に位置している。庶民感覚では理解出来ないとか、庶民には手の届かないこと、といった言いかたが第三位か。庶民の怒りを買う、あるいは、庶民として断じて許せない、という言いかたも多用される。私たち庶民は、ひとりの庶民として、などと自分を庶民として規…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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