VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

書評

あらゆる自然に背をむけ、人工の二次元を人は言葉だけで生きていく

 おなじ日の午後、僕たちは町のはずれのコーヒー・ショップにいた。奥行きのあるその店のいちばん奥まで入っていくと、ガラス戸の外には円形の内庭があった。その庭に生きる何本もの樹に、太陽の光が注ぐのをガラスごしに見ながら、二杯ずつのコーヒーを仲介にして、僕は彼女を聞き役に、ずいぶん喋った。
人の生きかたの根源にせまるようなテーマの長編小説について、話を聞いてみたいと思っているのですが。
 そのような小説は、たくさんありますよ。どれにしましょうか。ほんとに良く書けた小説というものは、ジャンルを超えているのですね。超…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『本を読む人』太田出版 1995年