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評論・エッセイ

丘の上の愚者は、頭のなかの目でなにを見たのだったか

 丘の上の愚者は、沈んでゆく陽を見たのだった。そして、この愚者には、目がもう一対あり、その目は彼の頭のなかにあったのだ。頭のなかのその目で、丘の上の愚者は、まわっている地球を見たという。
 そのときのその愚者には、まわっている地球しか見えなかった。あるいは、ひょっとして、「まわっている地球」とは、人間の言語がはじまって以来最大のスケールをそなえたおだやかな比喩であったのかもしれないが、とにかく、丘の上の愚者は、頭のなかの目で、まわっている地球をはっきりと見た。このことを否定する人はいない。ビートルズがそう言っているのだから…

初出:『ワンダーランド』一九七三年八月創刊号
底本:『10セントの意識革命』晶文社 二〇一五年改版(一九七三年初版)

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