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エッセイ

虚構のなかを生きる

 写真機を持って東京のあちこちを歩いているとき、僕は歩くことと考えることしかしていない。だからそのときの僕は人生時間のただなかにある。僕は人生時間と一体化している。そしてその僕は、これは写真に撮っておきたい、と思う光景をときたま目にとめる。僕はその光景を写真に撮るために、そこに立ちどまる。歩いていく僕と一体化して経過していた人生時間の外へ、そこに立ちどまることによって、僕は一歩だけ出る。
 そこに立ちどまるまでは僕とともに動いていた人生の時間は、立ちどまって写真機を構える僕をそこへ置き去りにして、比喩として前方へと経過し…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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