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評論・エッセイ

5月11日 男物のシャツ

 春おそいその日曜日は早朝から雨だった。しかし、彼と会う約束のために彼女が町へ出かける昼すぎには、雨はすでにやんでいた。
 町には、雨のすがすがしく甘い香りが残っていた。
 夕食までの、ゆっくりと流れていく自由な気持の時間のなかで、彼女は彼の買物につきあった。買物のための時間がとれず、のばしのばしになっていたいくつかの買物を、彼は彼女といっしょにすませた。
 彼は、シャツも買った。おなじ生地の、おなじスタイリングによるシャツを、色ちがいで四枚、買った。四枚とも微妙な美しい色であり、彼は気に入っ…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年