VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

純情だったあの頃のリンゴ

 戦後、というと「リンゴの唄」だ。昔の日本人の心のなかで、両者は一本の線で結ばれている。心のなかと言うよりも、いわゆる一般常識のなかでは、と言ったほうが正確かもしれない。「敗戦後のなんにもない虚脱状態の日本人たちの胸に、明かりを灯し明日に向けて勇気づけてくれた歌」などと解説をつければ、一般常識では満点だ。
「リンゴの唄」については、かねてより僕は不思議に思っていた。かねてよりとは、同時代的にその歌が幼い僕にも届いていた頃からずっと、という意味だ。一個のリンゴに、明日に向けて全国民を勇気づけるほどの大役を、引き受けることが…

底本:『音楽を聴く』東京書籍 1998年

このエントリーをはてなブックマークに追加