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評論・エッセイ

四歳の子供がそれを見た

四歳の子供がそれを見た



 二〇〇二年のひときわ暑かった夏に、この光景を、僕は写真に撮った。さかのぼること半世紀以上、一九四四年、僕が東京の目白で四歳の子供だった頃、乳母に手を引かれた毎日の散歩の途中に見た住宅地の光景と、半世紀を越える年月をへだてつつも、このふたつの光景は完璧に同一だ。根本的になんら変化していない、まったくおなじ質のままの光景だ。それは東京の住宅地のなかにあり、東京の謎はそこにある。
 東京が轟々と音を立てて動いているなら、その震源は住宅地のなかにある。…

底本:『ホームタウン東京──どこにもない故郷を探す』ちくま文庫 二〇〇三年

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