VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

じつはホットなままに

 僕が初めてワープロを使ったのは、一九八〇年代のなかばではなかったか。オアシス・ライトという機種だった。直訳すると、オアシス軽だ。この軽便型のワープロは、蓋を閉じてデスクの上に置いてある様子を観察すると、信じがたいほどに安物のポータブル・タイプライターに見えた。黒灰色としか言いようのない、趣も美意識の発露もおよそ皆無の、小型なのに押し黙って妙に重い、造形的にはどうにもならないものだった。
 量販店で見かけて、使ってみようか、となんとなく思った。だからそれを買って自宅へ持って帰り、夜にさっそく使ってみた。ある程度までの機械…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年

このエントリーをはてなブックマークに追加