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評論・エッセイ

万年筆で書く

 文章の原稿をかつて僕は原稿用紙に万年筆で手書きしていた。その期間は延べ三十五年くらいになる。いったい何枚の原稿用紙を、下手な手書きの文字で埋めたか。万単位であることは確かだ。万年筆で原稿用紙に手書きするとは、その頃の僕の場合、頭のなかでアイディアがおおよそのところまでまとまったなら、そこからいきなり本番として原稿用紙に書いていった、ということだ。だからその頃の僕の万年筆は、清書のための道具だったと言っていい。最初の下書きが最終的な下書きでもあり、それは同時に、本番の清書でもあった。
 ワード・プロセサーを使い始めてから…

底本:『ピーナツ・バターで始める朝』東京書籍 2009年

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