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再会は、ひとつの言葉だ。──連作小説集『と、彼女は言った』

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今春は小説の新刊が続々刊行されています。2016年4月21日は、連作小説集『と、彼女は言った』が講談社より発売になります。制作の舞台裏を伺う企画・第3弾は、担当編集者・見田葉子さんに書名や装丁の決め方、そして本書の魅力を綴っていただきました。

 

再会から生まれる7つの物語

 片岡義男さんの新刊『と、彼女は言った』は、全7編の連作小説集です。

 7編の主人公は、性別も年齢もさまざまですが、いずれも「作家」。彼または彼女が、旧い友人と再会し、そこからもうひとつの、新しい物語が始まります。

 収録作のタイトルは、「おでんの卵を半分こ」「だから靴は銀色だった」「と、彼女は言った」「バスの座席へのセレナーデ」「どこから来て、どこへ」「人生は野菜スープ」「ユー・アンド・ミー・ソング」。どれも、とても素敵です。

 単行本にまとめるとき、片岡さんと、書名をどうしましょうか、という話になりました。7編全体をあらわす書名選びは意外に難航して、二転三転、ようやく最後に決まったのが、「と、彼女は言った」でした。そう決まってみると、これしかない、と思える書名になりました。

 小説はどのように始まり、どのように終わるべきか。それぞれの物語の行方に、片岡さんならではの方法意識が働いています。
 

「いいね。グレーがいい」

 装丁をお願いしたのは、ライトパブリシティの帆足英里子さん。「群像」のデザインも手掛けている帆足さんのシャープなセンスで、女性の赤い唇がアクセントの、色気とインパクトのあるカバーデザインが出来ました。片岡さんを知っている人も知らない(?)人も、思わず手に取ってしまう引力ある一冊、と思いますが、いかがでしょうか。

と、彼女は言った

◆ 装丁:帆足英里子

 カバー画で女性の白い顔を縁どる、髪のようでもあり、舞台のカーテンのようでもあるグレーの部分は、実はデザイン段階では、ブラウンやブルー、グリーンなど、いくつものパターンがありました。すこし迷って片岡さんにご覧いただくと、一見して、「いいね。グレーがいい」と一言。たしかに、赤い唇がもっとも映える配色でした。

 それにしても片岡さんの言葉は、いつも端的で、一切余計なものがありません。小説の登場人物たちの会話と同じく、おおよそが一行以内で収まる短い言葉は、そのまっすぐな視線と相まって、ストレートのボールのように的確に投げ掛けられます。
 

会話が切りとる人生の時間

 そして本書の小説の世界も、そんな印象的なせりふのキャッチボールの中で作られていきます。

 「バスの座席へのセレナーデ」の主人公が、古書店で15年ぶりに再会した美女は、かつて取材した旅回りのストリッパーでした。取材後、彼女の巡業先にビートルズの『オール・マイ・ラヴィング』のレコードを届けた彼は、バスに乗って去り、彼女は見送ります。そして15年後、再会した彼女は言います。
 「あのときのあの終わりかたは、素晴らしい終わりかただった」。

 「どこから来て、どこへ」の主人公は、駅前で再会した男友だちに連れられて、昭和の街を思わせる、路地の焼き鳥屋に行きます。そこで出会った不思議な初老の男性、「正ちゃん」は言います。
「どこから来て、どこへ往くんだか、それは知らないよ。この俺に関して言うんなら、ほんのひと言で間に合うよ。ついあのあたりから来て、ついそのあたりまで往くだけだから」。

 短い言葉の中に、人生の時間があります。小説にはこんなことが出来るんだ、と心がふるえる瞬間です。

 そんな一瞬のきらめきを鮮やかに射止める、片岡さんの小説の魅力がつまった一冊。ぜひ読んでみてください。

(講談社文芸第一出版部 見田葉子)


▼イベント情報

片岡義男×江國香織×佐々木敦 「“最高の小説”のつくりかた」『と、彼女は言った』刊行記念

日時:6月4日(土) 15:00~17:00 (14:30開場)
場所:本屋B&B 東京都世田谷区北沢2-12-4 2F
TEL:03‐6450‐8272

『と、彼女は言った』の刊行を記念して、下北沢の本屋B&Bにて小説家の江國香織さん、批評家の佐々木敦さんとのトークイベントが開催されます。最新情報は文芸誌「群像」の公式アカウント(@gunzo_henshubu)でも更新中。ぜひチェックしてみてください。

→イベント詳細・ご予約は こちら


片岡義男『と、彼女は言った』(講談社)

▼おすすめの一冊|40年前に書かれた同名小説「人生は野菜スープ


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『と、彼女は言った』 新刊 本はこうして本になる
2016年4月22日 20:00