NHK「映像の世紀バタフライエフェクト」で『映画を書く』からの引用
12月30日(火)にNHKで放送された「映像の世紀バタフライエフェクト」の年末特番『スクリーンの中の東京百年』の中で、片岡義男が『映画を書く 日本映画の原風景』(2001年)の中で取り上げた映画『ハナ子さん』からの一文が紹介されました。
番組では冒頭で「東京には百年前の住宅は残っていないという。世界の大都市のなかでこれは珍しい。いわば東京とは“失われた町”である。映画には失われた東京の風景が鮮やかにとらえられている」という映画評論家・川本三郎さんの言葉が紹介され、戦前から近年までのいくつかの映画に描かれた東京の風景の移り変わりを見せています。
映画『ハナ子さん』は戦時中の1943(昭和18)年に公開されたミュージカル映画で、杉浦幸雄の漫画を原作とし、轟夕起子・灰田勝彦が夫婦役で主演。マキノ正博監督がメガホンを取った作品です。
番組中ではこの映画の中から戦時中とは思えない夫婦のユーモラスなやりとりや、ミュージカル仕立ての隣組での防空訓練シーンなどを写し、「まだ東京は本格的な空襲に遭っておらず、その恐ろしさを誰も知らなかった」というナレーションが被ります。そして当時の広告、原作漫画を使ったチラシやポスターなどに被せて『映画を書く 「ハナ子さん」』の中での片岡義男の以下の言葉がテロップで紹介されました。
「みなさん! この映画の気分で! 明朗、健全、唄って張り切りませう!」というのが、この映画『ハナ子さん』の宣伝コピーだったそうだ。この映画の気分で、明朗に健全に張り切って歌で元気をつけ、戦争の遂行を全面的に支持しましょう、ということだ。(中略)この映画を見て元気づけられ、張り切った人は多かったのではないか。結果として、かなりの毒として作用したのではないか。
ちなみに映画『ハナ子さん』について片岡は以下のように総括しています。
「〈健全〉と〈明朗〉を旨とした『ハナ子さん』だが、見終わった印象としてはたいそうもの悲しい。きわめて深く劇的に悲しいという種類の悲しさではなく、浅さと淡さが最初から最後まで一定に保たれて進行する画面を見ていくと、見ている自分の周囲や背後にいつのまにか悲しさがふと漂っているという、そういった種類の悲しさだ。この当時の日本を客観的に俯瞰するなら、状況はすでに厳しさをきわめていた。その状況が片方に巨大に存在し、もう一方には、素朴な善良さを基調とした撃ちてし止まむ映画が一本あった。素朴で善良で無防備な人たちは、ごくごく軽いコメディそして歌という、もっとも手軽な娯楽をその映画から受け取り、おそらくは相当なところまで楽しんで満足した」
「映像の世紀バタフライエフェクト」では『ハナ子さん』以外にも『映画を書く』の中で片岡義男が取り上げた『東京五人男』(1945)、『或る夜の接吻』(1946)や、『彼女が演じた役──原節子の戦後主演作を見て考える(第二部)』で取り上げた『東京物語』(1953)の中で写された東京の風景にも言及しています。
なお、『映画を書く』は全編がこちらの目次ページからお読み頂けます。
■関連作品
・『映画を書く』目次ページ
・『吉永小百合の映画』
・『彼女が演じた役──原節子の戦後主演作を見て考える』
2025年12月30日 22:30 | 片岡ニュース
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