エッセイ『ハワイイ今昔物語』3作品を公開
『ハワイイ今昔物語』は、季刊雑誌「キャシーマム」(Kathy Mom/マリン企画発行)にて短期連載された、ハワイを題材としたLPレコードについての音楽エッセイです。「キャシーマム」は、タレントで日本におけるハワイアンキルトの第一人者であるキャシー中島さんがプロデュースするオリジナルブランドの名称でもあり、月刊「サーフィンライフ」の増刊として発行されたこの雑誌では、ハワイアンキルトを中心にハワイアンライフスタイル全般の提案をメインとしていました。
かつて日本で「ハワイアン」というひと言で括られていた種類の音楽で、1961年から68年の間に日本とアメリカで発売されたLPが僕の手元に5枚ある。これらのLPがレコード店の棚に並んでいた頃から現在までの、40年ほどの時間が作り出す今昔の感というものを、いま僕は味わっている。ジャケットに使われた写真に写し取られた景色を観察すればするほど、今昔の落差は大きくなる。このLPを時間順に並べて壁に掛けると、そこにはワイキキ・ビーチの時間のパノラマがある。レコードを再生して聞いてみる。演奏に必要とした時間は、40年前のある日あるとき、実際に経過した時間だ。それがいまの時間のなかに、すっぽりとはまり込む。
(「キャシー・マム」2005年冬号[2004年12月1日発行]掲載)
1968年の4月初め、ワイキキのウールワースの食堂で昼食を食べながら、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたことを報じる記事をホノルルの新聞で読んだことを、いまでもはっきりと僕は記憶している。その1週間ほど前、オアフ島マノアの高台にある知人の自宅の新しいパナソニック製のオーディオ装置で、アーサー・ライマン・グループの演奏する『イエロー・バード』を聞いた。ラナイの内側から素晴らしい景観を見ていた僕は、ふたつのスピーカーから放たれてくる音によって、一瞬のうちに体全体を微粒子のように砕かれて音に絡め取られ、マノアの高みから見渡すホノルルの空間の中へ運び出されていく、という強力な錯覚を覚えた。
(「キャシー・マム」2005年春号[2005年4月1日発行]掲載)
僕には物を蒐集する趣味はないが、1950年代の半ばから10年ほどの期間、ハワイのダイアモンド・ヘッドのコレクションをしていた。主としてハワイで作られたパンフレット、新聞、雑誌その他、さまざまな印刷物のなかにダイアモンド・ヘッドがあれば、それを切り抜いて取っておくのだ。しかし1970年代の半ばにすべて捨ててしまった。いつもの僕のパターンだ。そしてかなりあとになってから、捨てたことを後悔する。ダイアモンド・ヘッドが左右逆版になっているものだけ別にしてあり、それですら書類箱にいっぱいあった。しかしハワイ音楽のLPはまだ無事なので、ダイアモンド・ヘッドがなんらかの形でジャケットに登場しているものを、少しだけ抜き出してみた。
(「キャシー・マム」2005年夏号[2005年8月1日発行]掲載)
2025年7月4日 00:00 | 電子化計画
前の記事へ