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エッセイ『ジャケットを見せたい 曲も聴かせたい』より13作品を公開

エッセイ『ジャケットを見せたい 曲も聴かせたい』(『Free&Easy』/2013~2015年)より13作品を本日公開いたしました。

女性歌手当人のポートレートをジャケットに使ったLPは数多くあるけれど、バスト・ショットでこれほど真正面からとらえた写真によるジャケットは、僕がこれまでに体験したなかではこれが最高だ。すごいねえ、これは、とつくづく僕はジャケットを眺める。被写体である女性も観察に値する。うまれ故郷のべルリン読みなら、マーレイナ・ディートリクスか。
『Marlene Dietrich – At The Cafe De Paris』(1954)

(『Free&Easy』 2013年4月号掲載

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一九六四年のアメリカ映画に、『ザ・カーペットバガーズ』(原作はハロルド・ロビンス)という作品があった。カーペットバガーとは、南北戦争のあとに野心を抱いて入り込んで来た政治ゴロみたいな人たちを意味する言葉だ。この娯楽小説のなかに登場した人物をもとにして脚本を書いて映画にしたのが、一九六六年の『ネヴァダ・スミス』という作品だ。音楽は「すぐれた演奏家たちによって演奏されるまでは、どんな音楽も単なる楽譜だよ」と言ったアルフレッド・ニューマンだ。
『Alfred Newman – Nevada Smith(Music From The Score)』(1966)

(『Free&Easy』 2013年5月号掲載

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初めて訪れるレコード店では自制心を働かせなくてはいけない、と僕は思った。欲しいレコード、興味を惹かれるレコードをかたっぱしから買うときりがない。一枚だけ買おう、と僕は店に向けて歩きながら決断した。僕は自制心の権化となり、LPを一枚だけ買った。そのときの一枚が、ダーク・ボガードがスタンダード・ヒットの歌詞を語っているLPだ。スタンダードそのものと言っていいポピュラー・ソング十二曲の歌詞を、メロディがオーケストラによって演奏されるのを背景にして、ダーク・ボガードが朗読しているLPだ。
『Dirk Bogarde – Lyrics For Lovers』(1960)

(『Free&Easy』 2013年6月号掲載)

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中古レコードを手に入れる経路は、一部を除きリアル店舗におけるアナログ遭遇を基本方針としている。リアル店舗でのアナログ遭遇とは、単なる偶然のことだ。それを幸せと呼ぶなら呼んでもいいけれど、達成感がありすぎる。幸せとも質を異にした、なにごとかを確実にひとつはなし遂げたことによる、達成感としか言いようのない気持ちを、しばらくは胸の底に抱いて過ごす。田端義夫の『ギター・ヒット・アルバム』というこのLPに遭遇したのは、いまはもうない町田のレコファンでのことだった。
『田端義夫 ギター・ヒット・アルバム』(1963)

(『Free&Easy』 2013年7月号掲載)

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ユニヴァーサル・インタナショナルという映画会社のディレクターの目にとまったクリント・イーストウッド。当時、陸軍に在籍していたが、除隊するまでの期間も俳優としての勉強をしていたのだった。その彼による『ローハイドのクリント・イーストウッドがカウボーイの愛唱歌を歌う』というタイトルのLPがある。『薔薇の花束』『シエラ・ネヴァーダ』『サン・アントニオの薔薇』『メキシカリ・ローズ』ど、カントリー・アンド・ウェスタンのスタンダードを12曲、イーストウッドは歌っている。カントリー歌手の歌とその趣が大いに異なり、そこが最大の魅力だろう。
『Clint Eastwood – Cowboy Favorites』(1962)

(『Free&Easy』 2013年8月号掲載)

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ザ・キングストン・トリオの最大のヒットは『トム・デゥーリー』という歌だろう。当時のFENのヒット・チャートに、何週間も連続で出ていた。したがって、この歌をいったい何度、聴いたことか。三人の楽器の音と歌声のタイミングは音楽そのものだ。4枚目のアルバム『Here We Go Again!』のジャケットは、何時間も続いたセッションのなかでのある一瞬をとらえたものだ。左右のふたりの、口の開きかたの大きさには注目すべきだ。彼らのミュージカリティの高さと、密接に関係のあることだ。ギターとバンジョーから、こうでしかあり得ない、という次元の確実な音が出ている。
『The Kingston Trio – Here We Go Again!』(1959)

(『Free&Easy』 2013年9月号掲載)

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ここにある彼女の最初のLPは、そのタイトルを歌謡曲風に言うなら、『ジュリーと申します』とでもなるだろう。僕はこのLPジャケットを見るたびに、こんな顔をした人が本当にいたのだろうか、と思う。その思いは相当に深い。相当に深いとは、本当にこんな顔をした人がいたとは信じがたい、というような意味だ。しかし、この顔をしたジュリー・ロンドンという人は、現実に存在した。収録された曲はどれもみな素晴らしい名曲だが、1953年の『クライ・ミー・ア・リヴァー』がなかったら、ジュリー・ロンドンは歌手として出発することは出来ても、そこから先がなかったかもしれない。
『Julie London – Julie Is Her Name』(1955)

(『Free&Easy』 2013年10月号掲載)

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『ザ・ジェイムス・ディーン・ストーリー』というタイトルの12インチLPの両面を聴きとおしてみた。ぜんたいで40分かからなかった。まず中年男性の声で語りがある。スティーヴ・アレンとビル・ランドルのふたりが、トラックごとに短く交互に語っている。台本を書いたのはスティーヴ・アレンだったという。映画館のスクリーンの上に、ジェイムス・ディーンの演技を見ることは、もはや完全に不可能だ。去った人を悲しむのではなく、去られたことによって手のなかに残った途方もない損失をこそ、悲しむといいと、およそ六十年前のアメリカ人が語っている。
『Steve Allen, Bill Randle – The James Dean Story』(1956)

(『Free&Easy』 2013年11月号掲載)

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美空ひばりのLPのジャケットには、和物と洋物との、ふたとおりがある。和物のひばりは着物だ。多くの場合、その着物姿は、芸者のそれではなかったか。洋物は、外国の女性、なかでもアメリカの芸能界で活躍する女性のように、髪や化粧を作り、ふさわしいと周囲の人たちや当人が判断した、ドレス姿のひばりだ。『ひばりとマドロスさん』というLPジャケットのなかの美空ひばりは、船員に扮しているのではなく、船員を演じているのでもないから、マドロスへ自分を擬態させている、としか言いようがない。
『美空ひばり – ひばりとマドロスさん』(1963)

(『Free&Easy』 2013年12月号掲載)

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戦前から日本ではシャンソンに人気があった。1950年代が始まった頃には、シャンソンはすでに洋楽の頂点にあった。フランス語はまったく理解出来なくとも、短調の憂愁に心を預けて、人生のぜんたいに、あるいは人生のなかにいくつもあるはずの断片の、さまざまな片隅へと、日本の人たちは思いをはせた。『ザ・ベスト・オヴ・モンタン』と題されたこのLPには『枯葉』がA面の一曲目にある。「セ・タン・シャンソン・キ・ヌ・レザンブル、トゥワ・テュ・メメ・エ・ジュ・テ・メ」と、広く知られた一節を暗唱することの出来た日本人がかつては全国にいたのだが、もはや絶滅したと言っていい。
『Yves Montand – The Best Of Montand』(1960年代)

(『Free&Easy』 2014年1月号掲載)

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デイヴ・ブルーベックの四重奏団がコール・ポーターの曲を演奏した『エニシング・ゴーズ』のLPは、彼の四重奏団の演奏が頂点に達した頃の、傑作のひとつだ。コール・ポーターの数多い曲から八曲を選んで素材にして、素晴らしい演奏を四人は展開させていく。ジャケットは女性の美しい脚だ。おそらく横たわっているはずのモデルがポーズしてみせた脚は、様式の美という領域に入っている、と言ってもいいか。履いている金色の靴が、コール・ポーターの時代を象徴している。
『The Dave Brubeck Quartet – Anything Goes! The Dave Brubeck Quartet Plays Cole Porter』

(『Free&Easy』 2014年2月号掲載)

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アンソニー(トニー)・パーキンスの『フロム・マイ・ハート』と題されたLPは、1958年に録音され、ボーナス・ソングとしてB面の最後に、『月影のなぎさ』が加えてある。この曲は1957年12月に録音されたから、ヒット・パレードに登場したのは1958年だった。そうか、いまから見るとそんなに遠いのか、と僕は思う。FM番組『きまぐれ飛行船』で少なくとも3度は、このLPからオン・エアした。アンソニー・パーキンスが歌った『月影のなぎさ』は、素晴らしい。傑作だ。原曲の良さから始まって、歌詞、編曲、演奏と、良さは上昇していく。そしてその頂上で、彼はすべての仕上げとしての良さを、充分に発揮していく。
『Tony Perkins – From My Heart』(1958)

(『Free&Easy』 2014年3月号掲載)

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ニール・サイモンの『ビロクシ・ブルース』が1988年に映画になり、『ブルースが聴こえる』という題名で日本でも公開された。クレディット画面の背後でパット・スズキという日系の女性歌手が歌った、『ハウ・ハイ・ザ・ムーン』という歌が使ってあったことを知った僕は、中古レコード店で彼女のLPを探した。彼女が歌う『ハウ・ハイ・ザ・ムーン』を聴かずに、この歌を語ることは出来ない。パットの声域は広い。声量は豊かだ。きれいな張りや艶が常にあり、のびやかで、どこにも無理はいっさいない。コントロールは絶妙のうまさだとしか言いようがない。しかしバラッドを歌う彼女はもっとも素晴らしい。
『Pat Suzuki With Henri René And His Orchestra – The Many Sides Of Pat Suzuki』(1958)

(『Free&Easy』 2014年4月号掲載)

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2023年2月28日 00:00 | 電子化計画

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