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トーストにベーコン・アンド・エッグス、そして紅茶

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 トーストにベーコン・アンド・エッグス、オレンジ・ジュースと熱い紅茶、そして日本ではふつうクレソンと呼ばれている草をひとつかみ。こんな朝食も悪くない。ぼくは好きだ。非常にしばしば、朝の8時ごろ、こんな朝食をたべる。

 まずトーストだが、パンの良し悪しや性質はおくとして、切ったときの厚さと焼きかげん、そして皿に置いたときの感じが大切だ。厚さは1センチあるかないかという程度にし、ほどよく焼き、2枚をおたがいに半分くらいかさなりあうようにして皿に置く。

 ベーコン・アンド・エッグスは、タマゴをふたつ使い、サニーサイドでとおす。ベーコンは塩辛すぎないやつを、カリカリにはしないで、火がよくとおったという感じにおさえておく。油が出るから、それは捨ててしまう。

 クレソンはそのままむしゃむしゃと食べる。トーストにはバターやマーガリンをつけてもいい。つけなくてもいい。ジャムやマーマレードは、いらない。

 むつかしいのは紅茶だ。レモンもミルクも砂糖も、なんにもいらない。熱くて、しかも濃すぎず薄すぎもせず、香りを逃がさないように。ポットやカップに注意するといいようだ。かつてイギリスの植民地だった南の島のホテルで、朝食に出す紅茶など、うまいぐあいにできている。

 熱い一杯の紅茶というと、都会の片隅の洒落たティーハウス、午後3時まえ、けだるい心と物憂い動作で飲む若い娼婦やおメカケさん、あるいはそれに準じた女性たちを連想する人が多いようだが、ぼくはアメリカ製のストーム・キットのなかに入っていたオレンジ・ペコーのことを思う。冬の山で道に迷ったりしたとき、とにかく一日もたせるために必要な最小限のサバイバル用品がキットになっているなかに、オレンジ・ペコーのティーバッグがいくつかと砂糖も入っていた。

 冬山の雪のなかで道に迷ったときに一杯の紅茶がいったいなんの役に立つのかと素人は思うだろうが、これがじつに基本的な実用効果をもっている。シェルターをさがし、あるいはつくり、火をおこし湯をわかし、紅茶をいれるという一連の行為が気持を落ち着かせ、冷静にしてくれる。火と紅茶は体をあたためてくれ、落ち着いて紅茶を飲んでいると、これからどうしたらいいか、きちんとした作戦も立ってくる。

 ぼくの朝の紅茶も、こんな紅茶に似た感じがする。ほかのいっさいを抜きにして、紅茶だけですませるときなど、特にそうだ。

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年


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2016年2月6日 05:30
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