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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

自然から遠く離れて

 明治時代までの日本人は自然とともにあった。あらゆるかたちの自然を信頼し、必要にして充分に畏れ、自然のなかに自分たちが見つけることの出来るさまざまな恵みに寄り添い、それらと静かに共生し、美しい緊張関係のなかにすべての人が充足していた。
 自然とともに送る日々という生きかたが、その根底から破壊され始めたのが、明治時代だった。鎖国を解いて文明開化とはなったが、文明の開化とは富国強兵や殖産報国であり、重工業を中心にハードウェアにおいて西欧に追いつき、それを追い越すことだった。
 それがひとまずどのような結果に終わ…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年

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