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評論・エッセイ

正解はブラック・コーヒーの色

 昼食のあと彼はオフィスへ戻った。午後の仕事をはじめて二時間ほど経過して、デスクの外線電話が鳴った。左腕をのばして受話器を取り、書類を見ながら耳に当てた。彼女だった。
 電話をかけてきた親しい人に対する最初の言葉として、やあ、と言うのをやめようと思いながら、 
「やあ、久しぶり」
 と彼は言った。 
「私です」
「すぐにわかるよ。元気かい」
「私は普通です。そちらは?」
「僕は会社で仕事をしている」
 なかば個室のように作っ…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
『ノートブックに誘惑された』角川文庫 1992年所収

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