日時計の影
昼間なら広い庭を見渡すことの出来る窓辺のテーブルで、ぼくは彼女と親しくさしむかいだった。遅い夕食を、ぼくたちは、いっしょに食べようとしていた。多忙な彼女のスケジュールにあわせていたら、今日の夕食はこの時間になってしまった。
庭のなかに、明かりはなかった。窓ガラスに顔を近づけ、じっと目をこらすと、色とりどりに咲いている夏の花の気配を、なかば感じとり、なかば見ることが出来た。早い時間の夕食なら、食前の酒を飲みながら、その庭を散歩することが出来た。
「今日は、忙しかったわ」
と、彼女は言った。…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
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