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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

ほろりと泣いて正解

 もう何年かまえのことになるが、季節はちょうどいまごろだった。
 よく晴れた明るい日の夕方、ぼくは、当時ひとりで住んでいた家の玄関ポーチのデッキ・チェアにすわり、楽譜を読んでいた。アメリカの、一九三〇年代、四〇年代に流行したポピュラー・ソングの、ピアノ用の楽譜だ。
 昔のアメリカの、じつによくできた、ロマンチックで陽気なヒット・ソングの楽譜を、夏のはじまりのオレンジ色の夕陽をあびながら読んでいると、世間ばなれした甘いせつなさが自分のまわりにいつのまにか空気のカーテンのようにできあがっていくみたいで、面白かっ…

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