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ならず者街道を旅したロバート・レッドフォードは、フロンティア時代の残り香のむこうに次の時代の巨大な影を見た。

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 映画『大統領の陰謀』の撮影が終ってから、男優のロバート・レッドフォードは旅に出た。アメリカの西部で人々のあいだにいまも語りつがれている「ならず者街道」1000キロを身をもって旅し、昔のアメリカといまのアメリカを同時に体験してみよう、と考えたからだ。

 ウォーターゲイト事件を材にとった映画をつくっていくなかで、ロバート・レッドフォードは、現代のアメリカがかかえているさまざまな問題を身にしみて知った。撮影が終り、ほっとしたとき、現代のアメリカというもののすべてを忘れ、つい昨日のように身近な一九世紀末のアメリカ西部という過去の中に、ロバートはひたってみたくなった。

「フロンティア時代のアメリカ西部は、情熱と生命力にあふれていた。テクノロジーの発達に尻を押されつつ未来へむかって容赦なく突き進んでいくいま、なぜだか過去に対する興味がいちだんと大きくなってくる。かつての西部に満ちていた生命力や個人主義のみなぎる情熱のようなものを、現代人である私たちはどこかで失ってしまった」

 と、ロバート・レッドフォードは書いている。

 モンタナ州とカナダの国境近くからはじまって、ワイオミング州、ユタ州、コロラド州、アリゾナ州、ニューメキシコ州と、ほぼ大陸分水嶺に沿ってつづき、最後はメキシコとの国境の町、エルパソで終っている「ならず者街道」。フロンティア・ラインもだいたい終ってしまった一九世紀の末に、ジェシー・ジェームズやフランク・ジェームズの兄弟、ブッチ・キャシディ、サンダンス・キッド、パイク・ランダスキー、キッド・カリーたちのワイルド・バンチなどが最後のひとあばれをしたのが、この「ならず者街道」に沿ってだった。

 フロンティア・ラインを東部から西へむかって押し広げていく行為そのものが、見方によれば充分にアウトローな無法行為であった。かつてのアメリカの西部がロバート・レッドフォードの言うように純粋な生命力と情熱だけにあふれていたかどうか大いに疑問だが、「ならず者街道」であばれていたアウトローたちが、その街道の近くにいまも生きている人たちにとってロマンチックなアウトドアの香りを失っていないことだけはたしかだ。

 馬で、そして4WDの車で、「ならず者街道」を旅して得た印象を、ロバートは『ナショナル・ジオグラフィック』誌に発表している。

 大陸分水嶺に沿ったこの長い街道が、ならず者たちにとっての幹線道路になったのは、一八七〇年ごろからだ。アメリカ国勢調査局がフロンティア・ラインは事実上消滅した、と発表するまでの二〇年ちょっとのみじかい期間、最後のならず者たちがフロンティアのほんとうの末期に、変わりゆく時代を相手にここで活躍した。

 街道といっても、荒野のなかの、あるのかないのかわからないような細い一本道だが、この街道のいくつかの要所に、サンダンス・キッドやブッチ・キャシディたちは、逃走用の馬や食糧、武器・弾薬などを、ほぼ三〇キロおきに、かくして配置しておいた。列車や銀行をおそって現金を奪い、街道沿いに走って次々に馬をとりかえ、短時間のうちに長距離を逃げきっては、官憲をだしぬいていた。

 いまロバートがこの街道を馬で旅して目にするのは、現代の最先端をいくテクノロジーによる自然の徹底した開発・破壊という、新たなフロンティアが土地の人々にもたらす不安だ。

 見渡すかぎり手つかずの自然しか目に入らないアリゾナの荒野に、高圧送電線の鉄塔が立ち、地平線のかなたへと高圧線がのびている。インディアン居留地の石炭を掘りかえして火力発電に使い、砂漠をこえて遠くロサンゼルスまでその電気を送っている。

 牧場に立ち寄ると、老いたカウボーイたちが歓迎してくれる。一九二〇年代には血気さかんなアウトローとして銀行強盗を専門にやっていたというそのカウボーイは、「ならず者街道」に身を沈める男としては最後の世代だ。

 石炭会社、石油会社、ガス会社、電力会社、化学工業会社など、ありとあらゆる企業が、牧場の土地やその地下の資源に目をつけ、買いにくるという。どこかほかに、牧場としてはるかに魅力的な土地を買いつけておき、その土地と交換にこの牧場をゆずってくれ、というふうに巧妙に話をもちかけてくるそうだ。

 新品の、まだごわごわするブルージーンズを仲間にからかわれながら、老いたカウボーイは、そんな話をロバートに語って聞かせる。自分はこの土地の一部分として生きるのだから、牧場を化学会社に売ってしまうようなことはぜったいにない、とカウボーイは言う。だけど、その土地を買いたがっている会社によって高い評価額が発表されると、周辺のほかの牧場の値もあがり、税金もつりあがる。牧場経営という職業の人は、アメリカではすでにマイノリティ中のマイノリティだ。売ってしまってその代金を銀行に入れ、利息で生活したほうが金銭的にはずっと楽だ。

 発電と灌漑のための巨大なダムをつくるという話のもちあがっている広い谷の原野で、十月の氷点下の夜をワイルド・バンチの男たちとおなじように野営しては、朝の熱いコーヒーを飲む。都会生活の垢を洗い落とすための素晴らしいアウトドア体験にはちがいないのだが、ロバートの思いは複雑だ。自分もまた、現代のテクノロジーに頼ってしか生きていくことのできない都会の人間なのだから。

 わずかな数の住人に支えられ、荒野のなかにひっそりと生きている、野趣あふれたゴースト・タウン。この町に一歩踏みこむと、一〇〇年前にタイム・トリップしたようだ。巨大なダムがもしほんとにできれば、この町も水の底に沈んでしまう。かつてのフロンティアの、いまにくらべればはるかに素朴な活気の余韻のようなものが、これからのフロンティアであるテクノロジーと開発にかさなって、感じられる。過ぎ去ったフロンティアと、これからやってくるフロンティアとが、同時に自分に語りかけてくる。

 荒野をいく。自然のほかになんにもないところに、ぽつんとひとつ、新興のブーム・タウンがある。ウラニウムの採掘で人口が急激にふくれあがった町だ。周辺に化学工場が続々と建造されつつある。昔も、金や銀、あるいは銅などのブームにわいた町がいくつもあった。しかし、歴史はただくりかえしているだけではない。ひとつの時代が終れば、それと共に、とても大切ななにかが、確実に失われていく。フロンティアの残り香がまだなんとか楽しめるいまという時代がまさに終ろうとしているのを、「ならず者街道」の旅でロバート・レッドフォードは見たようだ。

底本:『5Bの鉛筆で書いた』角川文庫 1985年

今日のリンク|『ならず者』|ハワード・ヒューズ監督|1943年|

今週の一冊|友よ、また逢おう

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いつも未知のほうへ、生命のきらめきのほうへ、 ビリーは向かって行った。ービリー・ザ・キッドといえば、アメリカ西部開拓時代のヒーローとして、 数々の小説や映画に描かれてきた。そのビリーの生きた日々を、片岡義男が書くとどうなるか。

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2017年2月8日 05:30
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