カウボーイ・ブーツ
アメリカの旅でいきずりに親しくなった初老のカウボーイ。ひとりのカウボーイとして徹底的に年季をつんだ彼がはいていた、カウボーイブーツ。あのブーツを、ぼくはいつまでも忘れないだろう。
あのブーツは、あらゆる形容や描写の言葉を超越して、ほんとうに、とことん、はきこまれていた。ほんとうのカウボーイは、一足のカウボーイ・ブーツを、あんなにまでこてんぱんにはきつぶすのか。生命いのちある日々を、今日この一日、明日また一日と、自分のブーツのしわや傷に刻みこんでいく。そんなふうな、はきつぶしかただった。
一日の仕事をお…
底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年