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評論・エッセイ

死語と遊ぶひととき

 あるひとつの事柄が過去のものとなって身辺から消え去り、その結果としてその事柄に言及されることはめったにない、という状態になったとき、その事柄を言いあらわす言葉は死語となる。廃語とも言われる。時間が単に経過するだけで、多くの言葉は死んでいく。
 時代の進展とともに消えていった道具類の呼び名は、こうしたプロセスのなかの出来事として、もっともわかりやすい例だろう。道具類の呼び名は、その道具を使う状況が消えるはじから、死語になっていく。火消し壺、火吹き竹、火のし器などは、世代によっては完璧な死語だ。五徳や十能、カンテラなどは、…

底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年