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評論・エッセイ

5月15日 林檎の樹

 星条旗が立っている郵便局の裏をゆっくりとおりすぎると、行手に一本の巨木が見えた。樹木に関するぼくの知識で判断すると、その大樹は楢の樹の一種のようだった。
 巨木や大樹は、たいていの場合、神々しさに近いような威厳を、長い歳月のなかで自然に身につけていく。行手にあるその楢の巨木も、神々しさに満ちていた。
 高さは二〇メートルをこえているだろう。がっしりとたくましく太い幹が大地に根を張り、その幹の途中から枝が何本も分かれ、あらゆる方向へのびつつ、二〇メートルをこえる高さをきわめている。濃い緑色の葉がびっしりと茂…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年

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