コーヒーもう一杯
七月が終わった。もう八月だ。いまは朝の八時。どんよりとした、という定石的な形容詞がぴたりとあてはまる、すこし重い感じの曇った日だ。気温は、八月のスタート時期にしては、すこし低い。風がとまっている。
ぼくは、コーヒーを一杯、いれてきた。オートマティック・ドリップ・コーヒーメーカーをつかっていれたコーヒーだ。粉はマクスウエル・ハウスの、オートマティックドリップ用のコーヒーで粉の量はほんのすこしでいい。かたむけたコーヒー・カップから例によって最後の一滴が落ちていこうとするところが、缶に貼ったラべルに描いてある。マクスウエル…
底本:『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年