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評論・エッセイ

彼女と一台の自動車


 秋の午後、やや遅い時間。あるいは、夕方のすこし早い時間。ダイニング・ルームに客をとおす準備は、まだ終わっていない。早い時間の客は、したがって、ロビーとして使っている部屋か、バー、あるいはテラスに案内される。彼女はテラスがいいと言う。
 太陽は深く西にまわり、低く落ちている。テラスにむけて、光は、浅い角度で斜めに入っている。ほとんどのテーブルが、影のなかだ。その影のなかに、三組の大人の客がいた。
 若い端整なウエイターは、ひとつだけあった陽の当たるテーブルに、彼女を案内する。テラスのすぐ外…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年

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