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評論・エッセイ

ブラックベリーとスニーカーの靴ひも

 東京からひとりで自動車を走らせて三時間、彼女は高原のホテルに着いた。
 よく晴れた明るい秋の日の午後のなかに、静かに、ゆっくりと、夕暮れが溶けこみはじめる時間だった。荷物を持ってホテルに入り、チェック・インした。ベルボーイが荷物を持ち、エレヴェーターで三階の部屋まで案内してくれた。
 落ち着いた、きれいな山荘のような造りの部屋だった。ホテルが背にしている森と、そのむこうの山が、大きな窓からすぐ近くに見えた。彼女は、シャワーを浴びた。熱い湯に体を叩かせていると、いつもの東京での生活からすくなくともいまだけは…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年