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評論・エッセイ

渡り鳥と寿司について

 一九六一年には大学の三年生だった僕は、その年の夏を房総半島の館山で過ごした。なぜ館山だったのか、いまとなってはなにひとつわからない。当時の僕は房総半島に関しては完全に無知だったはずだ。学校の友人に教えてもらったのかもしれない。ここの旅館は安くていいよ、海に近いし、というように。長い臨海学校のように夏を過ごす場所として、そこなら最小限の条件は揃っている、とでも判断したのだろう。条件とは言っても、あれやこれやと要求を重ねたわけではない。朝食つきの部屋が、望む期間だけ、海に近い旅館に取れれば、それでよかったはずだ。
 行くと…

底本:『白いプラスティックのフォーク──食は自分を作ったか』NHK出版 2005年

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