なにもなしで始めた
ひとり立ちという自立を曲がりなりにも始めたのが、僕の場合は大学を卒業した頃だったとすると、その頃の僕にはなにもなかった。なにしろ自立なのだから、多少は当てになるもの、あるいは足場や手がかりなど、少しにせよあってもおかしくはないと思うのだが、僕にはいっさいなにもなかった。石を投げれば卒業生に当たると言われた大学をただ卒業しただけだから、学歴はないに等しい。しかもそこをただ卒業しただけの身には、専門知識はもちろんないし、特別な才能もない。資産などあるわけなく、ここへ来てこれをやってみないか、などと言ってくれる人脈は皆無だ。
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底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年
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