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わたしの片岡義男 No.23片岡サポータ 坂本好徳「『美しく正しいさようならの言いかた』現代にも通じる魅力」

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【片岡サポータ】坂本好徳さん:1971年生まれ。中学時代に『ボビーに首ったけ』に出会い片岡作品にはまる。片岡さんと三好礼子さんに憧れ、スズキ・ハスラーに乗る。なぜかオーストラリアで大学を卒業し、2012年から国際教養大学の事務局スタッフとして働く。

片岡義男さんの作品の魅力を最近あらためて考えたときに、今絶大な人気を誇る新海誠監督のアニメ作品と共通する魅力があるということに気付きました。その共通点を中心に片岡作品の魅力を語ってみたいと思います。

ひとつめの共通点として、お二人とも非常にリアリティのあるファンタジー作品を生み出す作家であるという事が言えます。

片岡作品も新海作品も、どちらも多くの場合「今」の「日本」が舞台であり、その舞台自体は非常に緻密にリアルに描かれます。新海作品はその緻密な舞台に分かりやすくファンタジーである物語が展開されますが、片岡作品は日常の生活を丁寧になぞるようなお話なので、一見ファンタジーには見えません。ですが、それでも明らかにファンタジーといえる要素が存在します。それは、主人公の目線の高さです。片岡さんの物語の主人公はほとんどの場合一組の男女ですが、必ずこの二人の目線が同じ高さなのです。

ちょっと古い情報ですが、総務省統計局発表の2015年の統計を見ますと、日本人の25歳の平均身長が男性約172cmに対して女性約160cmですから、全く目線の同じ男女というのはなかなか難しいはず。しかし、片岡作品の中では必ず目線の高さが揃う二人が主人公となります。そしてその目線の高さは、片岡さんご本人がインタビューで答えていますが、全く対等な立場の男女を象徴しています。すでに令和の時代となっていますが、どうでしょう? 完全に対等な関係の男女というのは、いまだファンタジーの中にしか存在しないのではないでしょうか。

もう一つの片岡作品と新海作品に共通する魅力は「うつくしさ」です。

なんのことはない新宿の景色が、新海誠のフィルターを通すとあんなに美しい世界として描き出されるように、片岡義男のフィルターを通すと、ただトラックが走り去るだけの高速道路が『湾岸道路』という全く違う美しさをもった舞台として描き出されたりします。

また、「うつくしさ」は「かっこよさ」と言い換えても成立します。

片岡義男著『さようならの言いかた』から最後の一行を引用します。


突然の死によって遠く離別した愛する男に、以上のようなやりかたでさようならを言った彼女の、その言いかた以上に美しく正しい言いかたを、私はほかに知らない。


どうでしょうか? これを読むだけで物語全体が分かってしまう一文ですが、かっこよくないですか? きっと他の作家であれば、「彼の見送り方」とか「気持ちの整理の仕方」と書くところだと思いますが「さようならの言いかた」ですよ! しかも「美しく正しい」「さようならの言いかた」ですよ。このかっこよさに、私はしびれてしまいます。

『さようならの言いかた』は文庫本『缶ビールのロマンス』収録
(撮影:坂本好徳)

今から30年近く前の物語でありながら、現代にも通じる魅力を持つこの『さようならの言いかた』、いや片岡義男さんの小説群。絶対にお勧めです。

大学事務局スタッフ 坂本好徳

編集部より
今回の記事は、大学で開催された本の魅力をプレゼンする「ビブリオバトル」にて、坂本好徳さんが実際に発表した原稿がもとになっています。片岡義男と新海誠、一見つながりのなさそうな二人の作品から共通点を見出す内容は面白い着眼点で、思わず納得してしまいますね!
今回の一冊 電子版『さようならの言いかた』

『さようならの言いかた』表紙

そして彼女はやりとげた

若い男女がいる。大切な人を亡くした同士だ。
男にとっては親友。女にとっては恋人。
深い悲しみの中にありながら女性は彼女なりの仕方で別れを試みる。
見事なその別れを、彼女は完璧に美しくやりとげる。

 

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2019年11月8日 10:00

わたしの片岡義男

不定期更新。作家、ライター、編集者……さまざまな立場から片岡作品への思いを語っていただきました。読んだことのある作品でも違った面が見えてくるかもしれません。

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