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『個人的な雑誌 1』『個人的な雑誌 2』とはなにか?

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 作家・片岡義男の小説を、デビュー作から発表した順番にすべて電子化しようという「片岡義男 全著作電子化計画」は、2017年8月25日の10冊をもって、2000年までの電子化を完了しました。その10冊中の番外編ともいえる『個人的な雑誌 1』『個人的な雑誌 2』について、編集部・北條一浩が紹介します。

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分類ジャンルに迷う、ユニークな本

「片岡義男 全著作電子化計画」ではこれまで、できうる限り年代を調べたうえで、初出順に片岡義男さんの小説を発売してきました。片岡さんご自身は78歳の現在も旺盛に創作を続け、若手の作家をはるかに上回るペースで本を出し続けていますが、入手困難になっている旧作にあらためて光を当て、多くの方と共有する意義は小さくないと思います。なにしろ膨大な作品数があるわけですから、それらを電子書籍ならではのフットワークと仕掛けで流通させ、寄ってたかって片岡作品の読みを面白がっていきたい。そのことで「ずっとファンだった」人と、「昔よく読んだなあ」という人、「近作しか読めなかったので新鮮!」という人、そして「まったく読んだことなかったけど、面白い!」人が同列に並んで盛り上がれるようになることを、私たちはめざしています。

 さて、いま「小説」と書きましたが、当サイトを何度か訪れてくださっている皆さんはおわかりと思いますが、エッセイに関しては、毎日違う内容を無料公開する、というカタチを取っています。日々の更新についてはTwitterなどでも紹介し、楽しみに待っていてくださる方もいらっしゃることと思います。

 片岡さんが書かれるものには小説があり、エッセイがあり、そして以下は今後の本計画の課題になっていきますが、批評が、翻訳があります。そして時に、どこに分類したらいいのだろう? と迷ってしまう本が現れたりします。迷いながら発売を見送ってしまうにはあまりにもったいない、ユニークな本。

 というわけで今回は、8月25日に発売した小説群の中にひとまずは入れてみた2冊を紹介したいと思います。

個人的な雑誌 1』『個人的な雑誌 2』がそれです。複数の小説の発売に合わせてこの2冊もリリースしますが、これらは小説ではありません(いや、「これこそが新しい試みの小説なのだ」というご意見があれば真剣に拝聴したいです)。批評、と読んで差し支えないような文章もあります。エッセイかな? というのもあります。「小説ではない」と書きましたが、ショートストーリーも入っています。インタビューもあります。写真があります。しかも写真にも、作家自身が撮ったものとそうでないものがあります。つまり『1』も『2』も、どちらも雑多な形式による表現がいろいろ盛り込んであるのです。

 ではこれを何と呼べばいいのか?

 書名に倣って、やはり「雑誌」と言っておくのがいちばん良いのではないかと思います。普通「雑誌」といえば、「書籍」とは別の様式として理解されています。「書籍」には著者がいますが(複数名であっても)、雑誌には通常、著者はいません。あるトーンなり、テーマなり、ジャンルなりが比較的あいまいな括りとしてあり、それが雑誌名になって、その名前に沿うものであれば、ある水準を満たしている限り何でも載せようじゃないか。それが雑誌というものですね。

この2冊の編集長は、片岡義男さん

「書籍」が著者のものなら「雑誌」は出版社のもの。もっと言えば「雑誌」は編集者の、つきつめていくと、編集長のもの、と言えるのではないでしょうか。

 つまり、『個人的な雑誌 1』『個人的な雑誌 2』において片岡義男さんは編集長なのです。同時にこれは著者・片岡義男による「書籍」として流通してきたわけですから、この「書籍」と「雑誌」のあいだの飛躍をつなぎとめる言葉が「個人的な」であると見なしていいと思います。

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 内容を見ていきましょう。『個人的な雑誌 1』は、5つのパートからなっています。最初の「長いインタヴュー『語ることによるエッセイ』1」は、「片岡さん」と呼ばれる人に対するインタビュー(ここでは「インタヴュー」と表記されるのですが)の体裁を取っています。話されるのは、植草甚一さんの思い出、ジェイ・マキナニーの小説、北山耕平さんや津野海太郎さんたちと作っていた雑誌『ワンダーランド』のこと、その他、「片岡さん」が当時興味を持っていた数冊のアメリカの小説について語られ、それらはいずれもカラーの書影入りで紹介されています。聞き手の存在は明らかにされませんが、これはどう考えても、片岡さんによる片岡さんに向けた自問自答であると考えるべきでしょう。

 2つ目の「7枚ずつひと組の、ジャズのLPをながめる」は、冒頭部分に自問自答の「インタヴュー」の体裁がまだ続いており、実際に片岡さんがパーソナリティを務めていたFM番組「気まぐれ飛行船」の貴重なスタジオの写真(撮影は片岡さん自身)も掲載されています。それに続いて、7枚のジャズのLPのジャケット(カラー)が連続して出てきます。その7枚について「ストーリー」という視点から語られたあと、また別の7枚組が現れ、こちらは「ヴォーカルがない」7枚と紹介されています。

特集_個人的な雑誌1 特集_個人的な雑誌2 特集_個人的な雑誌3

 3つ目に「五十年まえの「名画」を二本、観た。そしてぼくは、昔の二枚目男優たちの限界を知った」という、十分に長く、十分に不穏なタイトルのこれまたセルフ・インタヴューがきて、4つ目は著者の説明によれば「オートバイに触発された十四篇の短文集」としての「彼の後輪が滑った」。

 最後に「あとがき」があり、そこで作者はこう書いています。「ぼくは、角川文庫のなかに、ぼくひとりだけの雑誌を持ってしまうのだ。これがその第一号だ。今回はぼくひとりで作ったけれど、これからは多くの素晴らしい人たちに参加してもらう予定でいる」。

 では、第二号はどうなったのか。『個人的な雑誌 2』です。

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 こちらの目次を見ていくと、「あとがき」に至るまでの章は6つ。「アメリカ的光景の遠近法」「さまざまな場所での、いろいろな想い」「めぐり逢う風景の物語━━アンセル・アダムズと彼の写真」「彼らはなぜ海に来るのか」「初雪より一日早く━━ショート・ストーリー」「僕と僕の写真について、すこしだけ語ります━━語りと写真 佐藤秀明」です。

「アメリカ的光景の遠近法」はアメリカのTVのニュース番組を見ながら、「軽飛行機の使い方」「日本がニュースになるとき」など9回に渡ってアメリカ社会の光景を考察していきます。それらは時にはアメリカらしいユーモアとして、また時にアメリカに固有の病理として書かれますが、TVニュースを見ながら考えていくというスタイルは、この後、CNNを見ながら湾岸戦争を考察した『日本語の外へ』へと受け継がれていくことになります。

「さまざまな場所での、いろいろな想い」は一転して日本が舞台。かねてより作家が、東京の中で最も好きだと繰り返し書いている東京湾岸や、かつて住んだ下北沢、甲州街道、新宿など、主に東京の中の、なじみのある場所での、その時々に去来した「思い」について書いています。ひとつだけ東京ではなく、「ひょっとしてぼく自身かもしれない」と書かれている場所があるのですが、さてそれは……。
 読んでいただいてのお楽しみ、ということにしておきましょうか。

「めぐりあう風景の物語──アンセル・アダムズと彼の写真」はいうまでもなく、風景写真の巨匠、アンセル・アダムズの写真について、『1』でおなじみの例のセルフ・インタヴューのような、自分自身との対話のようなスタイルを用いて書かれたテキストです。アンセル・アダムズのいう「イメージ・マネジメント」という概念がキーになりそうです。

「彼らはなぜ海に来るのか」の「彼ら」とはサーファーのことで、これまでに作家が出会ったさまざまなサーファーと海をめぐる思考です。そして「海」の次は「雪」のショートストーリーへと流れを変化させ、そして最後にようやく、「多くの素晴らしい人たちに参加」してもらう機会がやってきました。これまで片岡義男作品に数々の写真を提供してきた写真家の佐藤秀明さんが登場します。

 面白いのは、このパートこそ、歴然と片岡義男その人ではない、『1』『2』を通じてはじめて他人が出てきた「雑誌」ならではの部分なのに、佐藤さんの語りが一人称になっている点です。聞き手・片岡義男、語り手・佐藤秀明、というスタイルをここでは取りません。あれ? 佐藤秀明さんが自分で書いているのかな? いやいや、佐藤さんから聞いた話を、佐藤さんの一人語りとして片岡さんが「再現」してみせているのだろう。読者はそんなことを考えながら、読んでいくことになります。

 そして、「語り」のあとに佐藤さんの写真をたっぷり見ることができます。

特集_個人的な雑誌4 特集_個人的な雑誌6 特集_個人的な雑誌5

 以上、ざっと『個人的な雑誌 1』『個人的な雑誌 2』の内容を紹介しましたが、いかがでしょうか。読んでみたい、あるいは見てみたい、と思うものがあったでしょうか? 

 ひとつお断りをしておかなくてはいけないのは、角川文庫と今回私たちが発売するバージョンでは、収録されている写真が一部異なる、ということです。『1』『2』ともまず表紙の写真が違います。また、『2』の佐藤秀明さんの写真はすべて文庫とは別の写真になります。
 これは、文庫刊行から年月が経過していることをはじめ、諸般の事情によるものです。どうか、ご了承ください。文庫をお持ちの方、古書としてこれから探してみようという方は、そちらとの違いもぜひ楽しんでいただけたらと思います。

『個人的な雑誌 2』のラストで、ようやく佐藤秀明さんが出てきました。はたして『個人的な雑誌 3』の刊行はあるのか、あるとすればそれはどんな内容になるのか、楽しみに待ちたいと思います。

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2017年8月30日 00:00