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連載エッセイ「街へ出て」より3作品を公開

「街へ出て」は、2012年3月まで発行されていた日本経済新聞本紙日曜版の第2部『THE NIKKEI MAGAZINE』にて連載された複数の筆者によるリレーエッセイです。片岡義男は古書を含む、日本国内で出版された本に関する13篇のエッセイを提供しています。

 7月なかば、横浜で僕はシャープス・アンド・フラッツの演奏会を堪能した。シャープス・アンド・フラッツは、世界でも最高の位置に立つ17人編成のジャズのビッグ・バンドだ。結成されてからの活躍期間は58年に達した。素晴らしいこのビッグ・バンドが、実は今年で解散する。コンサート会場で買った『シャープス・アンド・フラッツ物語』には、58年にわたってこのバンドが継続させたすさまじい仕事ぶりが綴られていた。このバンドの活躍の歴史は、戦後日本の大衆社会の息づかいや肌ざわりをそのままに伝える歴史でもある。読み始めればたちまち、戦後の日本をその出発点からたどりなおすという、本でのみ可能な時間のなかに身を置くことになる。

(『THE NIKKEI MAGAZINE』No.76 2009年9月20日掲載)

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 気持ち良く晴れた日曜日の午後の下北沢。用事が早くに終わったので、本吉という古書店へ立ち寄った。この店の面白い品ぞろえに関しては、すでによく知っている。ここで僕は邦枝完二著の『恋あやめ』(昭和28年)を手にした。状態はたいへん良く、造本と装丁が美しい。表紙から背中をへて裏表紙まで全面に、風間完という画家が絵を描いて装丁している。この絵が素晴らしい。古書としての値段は1500円だったが、この装丁の本がこの状態で手に入るとは。こういう絵を描く人たちが、日本ではとっくに絶滅している。おそらくあっと言う間に描きあげたはずのこの絵は、2色で見事に完結している。そこに、題名と著者名の、よく調和した色をもうひとつ。文字もいい。画家がついでに題名と著者名も描いたのではないのか。

(『THE NIKKEI MAGAZINE』No.78 2009年11月15日掲載)

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 散歩、というものをしたことがない。東京のいろんなところを歩くけれど、いくつかの用事や用件をたどって常に足早だ。初冬の日曜日、おだやかに晴れた午後。よし、今日こそは散歩だと決意して自宅を出たまではいいのだが、散歩を主題にした本を3冊くらい買うと面白いのではないか、という用事を思いつき、私鉄の駅から快速急行に乗ってそのターミナル駅までいってしまった。駅のすぐ近くの巨大な書店まで、いつもの急ぎ足で。江戸から明治、大正、昭和まで、東京を歩くための本がこんなにあるとは。どんな時代を歩くにしてもそこはとっくに平成だろうに、などと思いながらも、3冊を選ぶことが出来た。その3冊を持って、すぐ近くの喫茶店へ、またもや足早に。

(『THE NIKKEI MAGAZINE』No.80 2009年12月20日掲載)

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2026年6月26日 00:00 | 電子化計画

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