エッセイ「やがて、模型(プラモデル)たちが語りはじめる」より1作品を公開
模型専門誌「月刊モデルアート」(モデルアート社)の臨時増刊号として発行されていた『M-CATS』(エム・キャッツ)連載のエッセイ「やがて、模型(プラモデル)たちが語りはじめる」の第1回を公開しました。単行本未掲載の作品です。
かつて日本の街を走っていた5種類のオート三輪の模型を、いま僕はひとりで観察している。オート三輪が縦横に走りまわる戦後の光景の中を、子供の僕は歩いていた。だからオート三輪というものをリアル・タイムで知ってはいるけれど、子供にとっては接点のごく少ない自動車だった。そのオート三輪の、32分の1のプラスティック模型を指先に持って、そうか、オート三輪とはこういうものだったのかと、いまにしてようやく、僕は感銘をあらたにしている。かつてのオート三輪に相当する商用車は何種類もある。しかし、かつて子供だった僕がオート三輪に対して感じた、強い力のむき出しになった感触を、いまの小さな商用車に僕はまったく感じない。時代の変化や技術の進歩とは、こういうことなのだろう。
(『エム・キャッツ』第2号[2001年5月号]掲載)
2025年9月12日 00:00 | 電子化計画
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