VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

お知らせ

私を月に連れて行って

 現在公開中の映画『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』。1969年、世界で初めて人類を月に着陸させたアポロ11号をめぐる映画で主演はスカーレット・ヨハンソンとチャニング・テイタム。このタイトルがかの有名なジャズのスタンダード・ナンバーから取られているのはおわかりでしょう。実はこの曲、今の若い人の間でも有名なのはご存知ですか?

映画『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』ポスター

『Fly Me to the Moon』(私を月に連れて行って)は、1954年に作詞家・作曲家のバート・ハワードによって制作され、フェリシア・サンダーズによって初演された曲です。今やジャズのスタンダード・ナンバーとしてよく耳にするこの曲、当初は「In Other Words」というタイトルで、曲調も私たちが聞き慣れたものとはかなり違っていたようです。

 その後、多くの歌手によってカヴァーされてきましたが、片岡義男はジュリー・ロンドンによるバージョンを、就職した会社を辞めフリーランスのライターとして仕事をスタートした頃に初めて聞いています。そして当時の自身の心境に重ね合わせ、

「彼女の歌声が作り出す、清廉な夜空のどこまでも深い静かな空間に、虚ろさのさなかにいた僕は、強い共感を覚えた。この歌を何度繰り返し聴いても、聴くそのたびに、彼女の歌声は僕の心の内面を照らし出し、ほら、よく見ておきなさい、と僕に説いてくれる」

と、エッセイ『虚ろな内側をよく見ておきなさい』の中で書いています。

ジュリー・ロンドン LPジャケット

 そして、世界的に最もよく知られているのはフランク・シナトラによる1964年のバージョンでしょう。1960年代、アメリカではアポロ計画もあって時代のテーマソングのように人々の心を掴み、ヒットしました。このシナトラバージョンのテープはアポロ10号と11号にも積み込まれ、人類史上初めて月に持ち込まれた曲にもなったそうです。

フランク・シナトラ アルバムジャケット

 また、この曲は2000年に公開された映画『スペース カウボーイ』のエンディングにも使われていますが、片岡はこの作品の映画評をエッセイ『スペースでも彼らはカウボーイ』に書いており、最後に流れるシナトラの曲について「この歌から思いついた冗談です、という断り書きのようなものだろう」といいつつも、「冗談の仕上げとして悪くない」としています。

 でも、今日本で(ひょっとすると世界でも)最も知られているのは、1995年放送のTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディングで使われたバージョンかもしれません。このエンディング、実は歌い手も曲調も違う複数のバージョンがあるようです。

新世紀エヴァンゲリオン_アルバム

 そして映画『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』では、2023年にデビューアルバムをリリースしたばかりのアーティスト、RAYEによるリリックビデオが公開されていますが、劇中で主人公たちが聞いているのは、ボビー・ウーマックが1968年にリリースしたR&Bバージョンだそうです。一聴して同じ曲だとはわからないかもしれませんが……

ボビー・ウーマック フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン ジャケット


 片岡義男.comでは『Music Gallery』『CDを積み上げる』『ジャケットを見せたい 曲も聴かせたい』など、書籍化されていない音楽・レコード関係のエッセイも多く公開しています。『Fly Me to the Moon』を足がかりに、ぜひ読んでみてください。あなたの音楽の世界がグッと広がるはずです。

2024年8月1日 18:00 | 片岡ニュース

このエントリーをはてなブックマークに追加