連作短編小説集『くわえ煙草とカレーライス』（河出書房新社／2018年）所収の『遠慮はしていない』を本日公開しました。

フリーライターの坂本雄二はある出版社から、「幅広く選んだ７人程度の女性にインタビューをし、その言葉から今を生きる彼女たちの、息づかいを感じさせる」というテーマの本の執筆を任されている。ある日、昼食を兼ねて、その本の取材相手との待ち合わせ場所である下高井戸の喫茶店に入った坂本は、突然の大雨に見舞われる。取材相手の女性は雨で来られなくなったが、電話である頼みごとを彼にする。その後、二人目の女性の取材のため、いったん松原へ向かった坂本は、彼女とともに再び下高井戸の同じ喫茶店に入り、昼食と同じカレーを食べ、同じ豆によるコーヒーを飲む。東急世田谷線沿線の駅を行き来しながら展開するストーリーは、不意の大雨で分断され、それが二人の女性と坂本との距離感の違いと重なっていく。カレーとコーヒー、そして片岡作品のファンにはお馴染みの、「下高井戸の踏切そばのコロッケ屋さん」がこの物語でも重要な役割を果たしている。

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