VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

お知らせ

短編『うしろ姿の設計図』5作品を公開!

雑誌『Oggi』(小学館)に1999年5月号から連載の短編5作品を本日公開いたしました。文・写真ともに片岡義男によるものです。

この「うしろ姿の設計図」が連載されていた小学館のファッション誌『oggi』(オッジ)は、30代女性に向けたファッションを中心とした雑誌として1991年に創刊。2022年3月現在も発刊されている月刊誌です。1999年5月号から連載された『うしろ姿の設計図』は、働く女性の背中が語るフォト・ストーリー。『1st SHOT!』に登場するのはオーストラリアで働く日本人女性であり、そのワークスタイルのちょっとした特殊性が、彼女のうしろ姿の写真にもうかがえるという、短いながらも凝った構成になっています。物語が写真を補完し、写真が物語を膨らませる相互作用の見事さは、片岡義男ならでは。先に写真から見ても、物語から読んでも楽しめます。

こちらからお読みいただけます

「うしろ姿の設計図」は、約1000文字のとても短い小説ですが、この『2nd SHOT!』の中には、主人公である彼女による、とても深い洞察がサラリと、まるで常識のような顔をして登場します。「とてもいいかたちで金持ちになる男性の妻は、美的な感覚においてたいそう鋭い」という、「彼女」が発見した法則は、身も蓋もないような気もするし、なんとなく正解のような気もするし、そんなことないだろうという気もする、なんとも言えない不思議さがあります。そしてそれは、そういう洞察をする彼女という形で、「彼女」を説明する言葉としても機能している訳です。その後に私たちは彼女が、その場所で彼女自身が撮った彼女の堂々としたうしろ姿を見ます。もちろんその全部が片岡義男の小説なのです。

こちらからお読みいただけます

飲み屋街の魅力をきちんと言語化するのは難しいのですが、一昨年からのコロナ禍で明らかになったことのひとつに、「人は飲み屋でなければ大酒を飲むことは難しい」という事実があります。これは、飲み屋街の魅力の傍証のひとつになるかも知れません。一方で、それは「カフェチェーンは大体コーヒーよりラテ類の方がおいしい」という法則と合体すると、「酒の味というのは、飲む場所に左右されてしまう」というテーゼを生んでしまうかも知れません。『うしろ姿の設計図 3rd SHOT!』に登場する「彼女」は、そういうこととは関係なく、見つけた飲み屋街のあり方と、そこで働く女性たちに魅力を感じていて、それでも、自分が惹かれた訳はよく分かっていません。街の魅力、酒の魅力というのは、そういうふわふわした所にあるのかも知れません。

こちらからお読みいただけます

この物語の「彼女」は、東京生まれの日本人ですが、高校時代にオーストラリアへ行き、そのまま20代後半までシドニーで働いていました。そんな彼女が転勤で久しぶりに東京に戻ります。この小説が面白いのは、その彼女が「日本の四季の移り変わり」に強烈な違和感を抱き、日本にはいられないと思い詰めることです。日本人が日本の四季を否定する物語というのは、ほとんど見たことが無いのですが、10代の後半から20代の後半までの十数年をオーストラリアで過ごせば、そういうことはあるのかも知れないと思います。生活の場所の変化で最も対応しにくいのは気候の変化だろうというのは容易に想像がつきますし、例えば日本の春から夏への、間に梅雨を挟んで変わっていく状態を「美しい」と思うのは、その変化を受け入れるために思い込んでいるだけかも知れないと、そういう自覚を持つ必要があるのかも知れないと、シドニーに送る手紙を投函しに向かう彼女のうしろ姿を見ながら考えます。

こちらからお読みいただけます

片岡義男作品には、フィクション、ノンフィクションに関わらず、写真と文章を組み合わせる試みが沢山あります。片岡義男ドットコムで連載されていた「東京を撮る」は、その試みの最も先鋭的な作品でした。そして、この「うしろ姿の設計図」は、働く女性の背中が語る物語を、うしろ姿の写真とプロフィール的な物語で見せる連作です。五回で終わってしまっているのが残念なくらい、くっきりとした女性像を紙面に刻みつけるような試みで、文章は何が書けるのか、写真は何を写すのか、それが組み合わされると、そこに何を表出させられるのかを一話一話、一枚一枚、考え抜かれたとても精度の高い作品です。わずか五回で終わっているだけに書籍化が難しい作品が、カラー写真付きで復刊できるのもデジタル出版ならでは、です。

こちらからお読みいただけます

2022年3月25日 00:00 | 電子化計画

このエントリーをはてなブックマークに追加