「短編小説の航路」シリーズ新作公開

書き下ろし作品「短編小説の航路」シリーズの新作『追憶のグレープフルーツ』を公開しました。片岡義男.comだけで読める作品です。

時間を自在に引き延ばしたり、早めたりするのは、物語を語る上で基本とも言って良いテクニックです。この『追憶のグレープフルーツ』でも、ひとりのフリーランスのライターの二十四歳から三十四歳までが、この短い小説の中で描かれます。読んでいて、全く急いだ感じは無いのに、気がつくと時間が過ぎているような錯覚を起こす文体の見事さは、まるで文字によるタイムマシンのようです。しかも作中で時間が巻き戻ることさえあるのです。そこに、楔を打つように、チェイサーとしてのグレープフルーツジュースがあり、それを彼に出していたはずの女性との会話があります。その全体を「追憶」という言葉で包んでしまう小説のマジックは、熟成を経たシングルモルトのウイスキーのようでもあります。

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