タイプライターの追憶
この写真は、僕が愛用しているタイプライターのうちの一台を、真上から撮影したものだ。ごく普通の普及品のタイプライターであり、デザインも普通だ。しかし、これはこれで充分にきれいではないか。いまこの文章を書いている日本製のワード・プロセサーを被写体にして、おなじような写真を撮る気に、僕はなれない。ごく普通の普及品のワード・プロセサーだが、デザインはまったくきれいではないからだ。
余計なものをすべて削り落とし、機能と使いやすさに徹した、基本にごく忠実なこのタイプライターのデザインは、結論をごく簡単に言うと、客観あるいは普遍だ…
底本:『昼月の幸福──エッセイ41篇に写真を添えて』晶文社 1995年